梅雨入り
勢いで樹と踊ったことで、陽葵はそれなりに注目される存在になってしまった。
(……やっちゃったなあ)
体育祭の後から明確に、周囲からの扱いが変わった。一部の女生徒たちからは明確な敵意を向けられて、他の生徒たちもどことなく近寄りがたそうにしている。そのことに、彼女は少しだけ落ち込む。それでも彼女には夏穂という親友がいたし、担任を含めた教師たちからの対応は変わらなかったから、イジメが始まるようなことはなかった。相変わらず、新しい友人が出来ないだけ。それを寂しく思いながら、彼女は日々を過ごしていった。6月に入り、雨が次第に多くなる。リビングのテレビから梅雨入りの言葉が聞こえてくる頃には、陽葵はレインコートが手放せなくなっていた。暗く淀んだ空は、まるで彼女の心を映し出しているようで。ずぶ濡れになった体をハンカチで拭きながら、彼女は大きなため息をついた。雨が降っているから、屋上へ続く扉も施錠されている。
(これじゃあ、皆で集まってご飯を食べることもできない……)
賑やかな昼休みは、彼女にとっては数少ない息抜きの場でもあった。それが無くなったことで、彼女の心は更に沈む。そんな彼女を、夏穂は心配そうに見つめていた。
「……あのさ、ちょっといい?」
そこに、同じクラスの男子生徒が声をかけてくる。陽葵はその生徒の顔に見覚えがあった。
「燕谷くん? うん、私はいいけど……どうしたの?」
大人しそうな男子生徒……燕谷理仁は、次の授業で使うノートと教科書を机の上に出しながら、淡々とした声で続けた。
「3階に、普段は使われてない教室があるんだ。玲央たちは普段、そこに集まって遊んでる。……もしも君が彼らに会いたいと思ってるなら、僕が案内してあげるけど」
その言葉を聞いた途端に、夏穂が鋭い目で理仁を睨む。
「何言ってるの。陽葵がわざわざ、アイツらに会いにいくわけないじゃない」
「そうかな。玲央たちは困ったところもあるけど、友人として付き合う分には悪くないよ。それに君たちは、いつも昼休みに屋上で集まっていたんだろう? 場所が変わるだけなら、大したことじゃないと思うけど」
理仁は全く動じずに、静かな声で告げた。陽葵は少し悩んで、チャイムが鳴る直前に小さな声で呟く。
「……ありがとう、燕谷くん。お昼休みになったら、案内してくれる?」
彼女の言葉に、理仁は無言で頷いて、夏穂は呆れと諦めが混ざったような顔をした。外はまだ、細い雨が降り続いている。けれど陽葵の心は、ほんの少しだけ前向きになっていた。




