祭りの終わりと宣戦布告
手を繋いで、楽しそうに踊る2人。それを見ながら、姫依は悔しそうに唇を噛んだ。
「ねえ、なんであんな子が御門様と踊ってるの?」
「知らないわよ。……でもあの子って確か、借り物競走の時に御門様と一緒に走ってたから……もしかして、付き合ってたりするのかも」
「ハア? なんで!」
「そうよそうよ。あんな平凡な子は、御門様には相応しくないわ」
樹のファンである女生徒たちが気色ばむ。けれどそれはごく一部で、他の生徒たちは対して興味もなさそうにしていた。それもまた、姫依の苛立ちを加速させる。
「ちょっと、あなた。どういうつもり?」
彼女はその苛立ちを、横にいた男……玲央に向ける。彼は平然とした表情で答えた。
「知らん。……我はあの男と競えれば、理由自体はどうでもいい。今回は引き分けに終わったが、簡単に勝ててもつまらぬからな。奴の本気が見られたと思えば悪くない結果だ。我としては、今日は満足できた方だな」
その答えに、姫依は目を伏せてため息をつく。
「……そう。結局あなたは、どこまでいっても魔王なのね。自分本位でワガママな、予測不可能な人……」
「なんだ。我のことは、知っていたのだろう? その上で助力を望んだのは、貴様の方だ」
ニヤリと笑って、玲央が告げる。彼とペアを組んでいる在里は、冷めた目をして姫依を見ていた。彼女はそれ以上は何も言わず、地面を見たままステップを踏む。そうしてしばらく踊った後に、ダンスの音楽が止んで、グラウンドにいる生徒たちもバラけ始めた。体育祭が終わったのだ。樹も名残惜しげに陽葵の手を離して、クラスごとに決められた位置に移動する。そして始まった時と同じように、生徒会長が壇上から閉会の挨拶をした。
「……陽葵、行こ。早めに着替えて、今日は一緒に帰ろうよ」
会長の挨拶が終わると同時に、夏穂が陽葵に駆け寄ってその手を取った。陽葵が無言で頷いて、彼女と共にその場から去る。樹は彼女たちを微笑ましそうに見送って、振り向かずに告げる。
「……さて。これで分かっただろう? 王女でなくなった君には、何もできない。潔く諦めてくれると、僕も嬉しいんだけど……」
「それは有り得ませんわ」
校庭に残った姫依は、彼の背中に向かって宣言する。
「私は決して諦めません。あなたが振り向いてくださるまで」
夕日を浴びて、少女が微笑む。華やかに、美しく。けれど彼女の想い人は、その笑みを見ない。後ろを見ずに、無言で去っていく。姫依はその冷たさすら愛おしく思いながら、去りゆくその背を見送った。




