フォークダンス
紙に書かれた名前を見た教師は、何か言いたげな顔をしたが、結局何も言わずに処理した。陽葵は教師に礼を言って、テントから離れる。その間に前の競技が終わって、フォークダンスが始まる時間になっていた。陽葵は急いで、グラウンドに集まっている生徒たちに合流する。その中には樹や玲央、姫依の姿もあった。居るだけで目立つ彼らと違って、彼女はあまり注目されない。そのため彼女はコッソリと、親友の隣に並ぶことができた。もっとも、それはペアが発表されるまでの話。樹の相手として彼女の名前が発表された瞬間に、周囲にいた生徒たちは一斉に彼女の方を見た。その中には姫依もいて、彼女は陽葵に対して責めるような目線を向けてくる。
「陽葵! ありがとう、僕を選んでくれたんだね!!」
それらの視線を物ともせずに、樹は満面の笑みを浮かべて陽葵に駆け寄ってきた。陽葵は周りに圧倒されながらも、樹の目を見返して頷く。
「……うん。私、あんまりダンスとか得意じゃないけど……それでも、頑張るから」
「そんなこと、気にしなくてもいいよ。ダンスは僕がリードするから、君は僕に任せていれば大丈夫。……君の可愛さが僕以外の男に知られるのは、少し嫌だけどね」
「……あのねえ」
陽葵は半目で樹を見た。
「樹くん以外に、私を可愛いと思うような人がいるわけないでしょ」
「そう? 僕はそうは思わないけど……まあいいか」
彼は笑みを崩さずに彼女の手を取る。そしてブラスバンド部が音楽を演奏し始めて、フォークダンスが始まった。陽葵は樹と向かい合うように手を組んで、彼の動きに逆らわないようにしながら付いていく。その途中で、彼女は姫依とすれ違った。
「この事は忘れませんわよ、佐藤さん」
恨みの籠もった声で、姫依が呟く。陽葵は固い表情になった。
「……王生さん。私は……」
「陽葵。こっちに来て」
彼女が何かを言う前に、真剣な表情の樹がその手を引いて、彼女と自分の位置を入れ替える。そして彼は、姫依に冷たい眼差しを向けた。
「王女イザベラ。いや、今は王生姫依さん、だったね。悪いけど、君を陽葵に近づけさせるわけにはいかない。……今度こそ、僕は彼女を守りきるんだ」
低い声音でそんな宣言をした樹を、姫依は悲しそうに見つめている。陽葵はそんな2人の姿を目にして、複雑な表情を浮かべていた。
(樹くんは、私を守ろうとしてくれてる。それは分かってるけど、でも……)
陽葵は繋いだ手を強く握る。樹が不思議そうにしながらも、その手を握り返してきた。
「どうかした?」
「……ううん、何でもない」
そう言いながらも、陽葵は姫依のことを警戒し続けている。樹が強いことは分かっていても、姫依は何をしてくるか分からない。
(樹くんに、ただ守られるだけじゃない。私も樹くんのことを守らないと)
陽葵はそう思いながら、ダンスを続けた。




