体育祭・夕(後編)
樹の告白に、グラウンドがざわつく。陽葵は目を伏せて、体を縮こまらせていた。樹はそんな彼女を、愛おしそうに見つめている。
「ええと……なるほど、ありがとうございます。では次に、中野さんが持ってきたのは……はい、帽子ですね。では紙を見せてください」
係の生徒が居心地悪そうに、2番目に来た生徒の借り物を確認する。気まずい空気の中で借り物競走は終わって、次の種目が始まった。けれど周囲の生徒たち……特に樹のファンたちは、今も陽葵の方を見ながらヒソヒソ話をしている。
「……ちょっと。どうする気なのよ、この状況」
夏穂がジト目で樹を見る。彼は苦笑を浮かべていた。
「だって仕方がないだろう? 借り物として指定されたのが、『好きな人』だったんだから。文句なら、借り物を設定した実行委員に言ってくれ」
そんな会話を聞きながら、陽葵はずっと俯いて、この後のことを考えていた。
(私にとって1番楽なのは、夏穂とペアを組むことだけど……)
周囲にいる彼のファンたちが話している内容は、彼女の耳には入らない。けれど好意的なものでないことは分かる。
(……それでいいの? このまま、樹くんに甘えて、何もせずにいるなんて)
彼は陽葵の選択を見守ってくれている。彼女が友人を選んでも、きっと何とかするだろう。もしかしたらその場合は、ダンスの時だけ参加しないようにするかもしれない。そのくらいのことはする男だ。だから、これは。本当に、陽葵がそうしたいというだけの話。
「ねえ夏穂。私、樹くんと踊るよ」
クラブ対抗リレーが終わった後、大縄跳びに出るためにグラウンドに移動しながら。陽葵は親友にだけ聞こえるように、小さな声で呟いた。夏穂はその言葉を聞いて、仕方がないというように笑む。
「……分かった。アタシは陽葵の味方だから、アンタの選択を応援するよ」
彼女との会話はそれで終わる。その理由は、大縄跳びが始まったこともあるが、どちらもそれ以上のことを話す必要はないと知っていたからでもあった。競技が終わって、陽葵は1人、運営の先生たちがいるテントまで走っていく。
「栗川先生! あの、フォークダンスのペアって、まだ希望が出せますか?」
「お、おう、佐藤か。まあ、競技が始まるまで、一応希望は受け付けてるが……」
息せき切って駆け込んできた陽葵を見て、体育教師が複雑な顔をする。
「……なあ、佐藤。お前の名前を第一希望に書いてきた生徒が3人もいるんだが、お前は何か知ってるか?」
「……えっと、はい、まあ……」
陽葵は目を逸らして頷く。そして彼女は、渡された紙に彼の名前を書いて提出した。




