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体育祭・昼(前編)

陽葵(ひまり)夏穂(かほ)(いつき)と入れ替わりでグラウンドに出て、お互いの足を紐で繋いだ。そして肩を組んで、スタートラインに立つ。


「あの2人の後だと、緊張するね」


「……まあね。でもアタシたちはとにかく、全力でやればいいのよ」


笑顔で言葉を交わして、2人はどちらからともなく前を向く。その背に向かって。


「こんにちは」


柔らかで、華やかな声。突き刺さるような鋭さを内包(ないほう)した目で、誰かが声をかけてくる。隣に並んだその少女は、彼女の相方が不思議そうに見ていることも意に介さず、真っ直ぐ陽葵を見つめていた。挨拶を返そうとした陽葵が、少女に気づいて固まる。


「こちらでお会いするのは初めてね」


彼女は……姫依(きい)はそう続けて、目を細めた。


「今度は、私の邪魔をなさらないでくださると嬉しいわ」


彼女の言葉が陽葵を縛る。息をすることも忘れそうになった、その瞬間に。夏穂の声が割り込んできた。


「陽葵。今は走ることだけに集中して」


「……う、うん。そうだね」


動揺を顔に出したまま、陽葵が頷く。スタートの合図であるピストルの音がして、彼女たちは一斉に走り出した。


(どうして、あの人が)


走りながらも。陽葵はずっと、追い詰められたような気持ちでいた。


(アルトを追ってきたのかな。だったら私は、どうすればいいんだろう)


陽葵の足が小石に(つまず)いて、彼女と夏穂は一緒に転ぶ。擦りむいた膝の傷からは、あの日に見たそれと同じ、赤い色が覗いていた。


「陽葵。大丈夫だ。オレが側にいてやるから。今世では、お前を殺させたりしない。樹だっているし、この世界ではアイツは、王女様でもなんでもないから……」


夏穂は彼女を励ますように声をかけて、最後尾で一緒にゴールする。そして1位の旗を持って立っている姫依から離れた位置で、競技が終わるまで彼女に寄り添っていた。


「……すいません、先生。陽葵が怪我しちゃったんで、手当してもらってもいいですか」


軽い表彰が済んだ後に、夏穂は陽葵を(ともな)って救護テントに向かう。保健の先生はすぐに、救急箱を取り出した。消毒された傷口に白いガーゼが当てられて、白いテープで固定されていく。陽葵はそれを、感情の見えない目で見つめていた。


「はい、出来たわよ」


事情をよく知らない先生は、それ以上の話はしない。夏穂と陽葵も、先生に頼る気はなかった。今はまだ。


「陽葵!!」


テントから出たところで、樹が血相を変えて駆け寄ってくる。


「あの女に何か言われたの? そんなこと、気にしなくてもいいんだよ。僕は君の……君だけの味方だ」


彼は(うつむ)く陽葵の手を握って、力強い口調でそう言った。

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