ズレた決意
「陽葵! お前なぁ!!」
5時間目が終わると同時に、夏穂は陽葵に詰め寄った。その大声に周囲が驚いたのを見て、彼女は慌てて声を潜める。
「何考えてんだ。あんな約束して、もしも樹が負けたらどうするんだよ」
「大丈夫だよ、樹くんなら」
陽葵は困り顔で、けれどもハッキリと口にした。
「出場する競技の数を同じにしてほしいっていう条件を付けたのにも、きっと意味があると思う。出たら絶対、優勝できる自信があるからだよ」
「って言ってもな……玲央の舎弟は、至る所に居るんだぞ。ソイツらが邪魔してきたら、樹でも簡単には勝てないんじゃ……」
「……そうかもね」
陽葵は遠い目をした。
「でも、樹くんは……アルトはもう、無理だって言われてたことを成し遂げたことがある。私はあの日のことを、1度だって忘れたことはないんだ。アルトが長い間、村に帰ってこなくて。勇者って呼ばれた他の人たちと同じように、あの子ももう死んだんだって。そう言われても、私はどうしても諦められなくて、毎日神様に祈ってた。そうしたら、アルトが帰ってきてくれて……。私はあの日に実感したの。アルトゥールは……私の幼馴染は、不可能を可能にしてしまう人なんだって。だから何だか、アルトなら何でも出来るような気がして」
その言葉に、夏穂はとても複雑な顔をした。
「……それは」
彼女は……彼は勇者パーティーの一員だった。だから陽葵の気持ちも分かる。その上で。
「オレだって、アイツのことは信じてる。だけど、それでも……アイツにだって、出来ないことはあるんだよ」
夏穂は絞り出すような声で告げた。それと同時にチャイムが鳴り、彼女は無言で席に戻る。その背を見つめながら、陽葵は小さな声で呟いた。
「……分かってるよ」
彼女の脳裏に蘇るのは、彼との思い出ばかりだ。幾度も彼女の手を取って、支えてくれた優しい彼。彼女を忘れないで居てくれた、大切な人。
(子供の頃の約束なんて、とっくに果たしてもらっているのに。それでもアルトが私に関わり続けるのは、私が殺されてしまったから……?)
彼女はずっと、そのことを気にしている。殺されたことよりも、それで彼に消えない傷を残してしまったことの方が、彼女には耐え難かった。
(ねえアルト。私はもっと、強くなりたい。夏穂に心配されなくてもいいように。……あなたが安心して私から離れられるように、頑張るね)
そうして彼女は決意する。幼馴染が、どんな生き方でも選べるように。この3年間で、もっと力をつけようと。




