魔王と勇者と村娘(後編)
「……まあ、幼馴染でしたから」
陽葵はそう言って目線を落とし、樹の頭を優しく撫でた。彼は相好を崩して、されるがままになっている。そんな2人を見ながら、夏穂は渋い顔をした。
「だからって、くっつき過ぎだと思うけどね」
「ん……別に、良いだろ。ここには事情を知ってる奴しか居ないんだから。グラントリーの部下だって、何も言わないってことは前世のことを聞いてるってことだ。遠慮なんてしなくていい」
樹の言葉に、玲央は少し不満げにしたが、結局何も言わなかった。代わりに。それまで黙っていた取り巻きの1人が、無感情な声で口を挟む。
「玲央様。先ほどの話は、どうされますか」
「……ああ、そうだったな」
玲央が口の端を笑みの形に歪める。それを見て、夏穂は緊張で体を固くした。樹も目を細めて、陽葵を抱く腕に力を込める。
「話って何?」
「いや何、大したことではない。この国の学園には、季節ごとに様々な催しがあるだろう? 我は今まで加わっていなかったが、貴様と競えるのであれば、やってみるのも悪くない。どうだ。次にある、体育祭とやらで。互いに別の種目を選んで、優勝した数を比べてみないか」
明らかに警戒しているような様子で問いかけてきた樹に、玲央はニヤリと笑って返す。そして彼は、陽葵の方を見て告げた。
「もしも我が勝ったなら、その時はお前もこ奴らも居ない場所で……2人きりで、その娘と話をする。どうだ」
「ハア?! そんな条件、飲めるかよ!」
樹が返事をする前に、勢いよく立ち上がった夏穂が叫ぶ。玲央は動じず、彼女の方を見て笑った。
「なんだ。勇者の仲間であるお前が、奴を信用していないのか」
「そういう問題じゃねえ! 万が一にも、お前と陽葵を2人きりにしたら、何があるか分からねえだろ!!」
大声で叫ぶ夏穂の横で、陽葵は困ったように目を伏せた。樹はそんな彼女の頬に触れて、柔らかな笑みを浮かべてみせる。
「大丈夫。陽葵は絶対、僕が守るよ」
そうして。彼はゆっくりと、玲央の方に向かって答えた。
「……その勝負、受けてもいいけど条件がある。出場する競技の数は同じにすること。それだけ守ってくれるなら、僕は構わないよ」
夏穂が物凄い形相で振り向く。玲央は笑みを深めた。
「いいだろう。余計なことで、後から文句をつけられても面倒だ。その条件を飲んでやる」
「……っ、お前ら、勝手に……!」
強く歯噛みした夏穂の制服の袖を掴んで、陽葵がそっと引っ張る。そして彼女は、小さな……けれどしっかりとした声で言った。
「私はいいよ。樹くんのこと、信じてるから」
その直後に、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。夏穂はまだ納得していない様子だったが、陽葵に促されて渋々教室に戻っていった。




