大騒ぎの昼休み
魔法がない世界では、時間の流れを止めることはできない。4時間目の終わりを知らせるチャイムの音が鳴った後に、夏穂は深いため息をついて斜め後ろに視線を向けた。
「陽葵はさあ。今日も屋上に行くの?」
「うん、行く」
「でもさあ。絶対アイツらが待ち構えてるじゃん」
「大丈夫だよ。樹くんも来てくれると思うし」
彼女の友人は、布で包まれた弁当箱を持って席を立った。それを見て、彼女も渋い顔になって弁当を取り出す。
「ねえ夏穂。嫌なら別に、来なくても……」
「嫌だけど、アタシの知らないところで陽葵がアイツらと会う方がもっと嫌だから行く」
夏穂は据わった目で言った。そして陽葵を先導するように歩きだす。陽葵は無言で、彼女についていった。2人はそのまま階段を上って、屋上の扉を開ける。抜けるような青空の下。2人の男が、向かい合っているのが見えた。
「……まったく。君たちがこんな所まで追いかけてくるとは思わなかったな。別に居てもいいけれど、僕と彼女の邪魔はしないでね?」
「残念だが、それについては保証できんな」
睨み合う男たち。夏穂の後ろから顔を出した陽葵は、そんな彼らの横を通り抜けて屋上の床に腰をつけた。そして呆然とする彼らを気にせず、彼女は弁当箱の包みを開ける。
「……食べないの? 早くしないと、お昼休みが終わっちゃうよ」
周囲から物言いたげな視線を向けられて、彼女は箸を手に持ったまま淡々とした声で言う。夏穂は黙って、彼女の右隣に陣取った。樹が目を細めて、その反対側に座る。玲央は面白そうな顔をして、彼女の正面に移動した。彼の舎弟たちも引きずられるようにしてやってきて、陽葵の周囲は昨日よりも騒がしくなる。
「玲央くんは」
弁当を食べる手を止めて、彼女がポツリと呟いた。
「お姉さんがいるって聞いたけど、今は何をしてるの?」
玲央がパンを齧りながら渋い顔をする。彼は口の中の物を飲み込んで、低い声を出した。
「……奴なら大学に行っている。今度の休みには帰ってくると聞いたが……」
「へえ。じゃあ、私の家と同じだね。樹は? 兄弟とか、いる?」
「妹がいるよ。メルもグラントリーも、よく知ってる」
ニコニコと笑って、樹が告げる。その言葉を聞いて、夏穂は眉間のシワを深めた。
「……それ、セラかエイミーのどっちかだよな?」
「いや、レイフだけど」
「男じゃねーか! くっそ、何だってどいつもこいつも……! それならいっそ、お前も女になってろよ!!」
夏穂が大きな声で叫ぶ。樹は困ったような顔で笑った。
「流石に、転生先の性別までは僕にもどうにもできないよ。運命だと思って諦めて?」




