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波乱(後編)

そんな、どこにでもあるような話を。(いつき)は大切な、宝物のように話した。陽葵(ひまり)が目を(またた)かせて呟く。


「……それだけで、そんなに?」


「あのねえ……」


樹は深いため息をついた。そして彼女の頭を撫でながら、苦笑を浮かべて話を続ける。


「それはきっかけ。君は僕が魔王を倒して、村に帰ってきてからも変わらないでいてくれたでしょ。変わらなさすぎて、戦勝記念のパーティーに呼んでも来てくれなかったのは、ちょっとだけ残念だったけど。でも僕は嬉しかった。肩書とか、功績とか。そんなものが無くても、君は一緒にいてくれるんだって分かったから」


陽葵が頬を赤らめて(うつむ)く。彼女はか細い声を出した。


「それは……パーティーに行くための服なんて持ってなかったから。それにアルトが勇者様になったって言われても、私の前にいるアルトは旅に出た時から何も変わってなかったから。だから実感が()かなかっただけで……」


「……うん。それでいいんだよ、君は」


樹が嬉しそうに目を細める。夏穂(かほ)は呆れ顔で口を挟んだ。


「はいはい。仲が良いのは分かったから、そろそろ現実を見ろ。どうすんだよ、この状況。朝のホームルームまで間がねえぞ?」


その言葉に。樹が仕方ないなと言いたげな顔をして、拳を構えた。周囲を囲む不良たちがざわめく。玲央(れお)は彼らを制止して、ゆっくりと陽葵に近づいた。


「そこの女。名は?」


「……佐藤陽葵、ですけど」


「陽葵か。貴様の見目に相応(ふさわ)しい、平凡な名だな」


「そう思うなら、どうして私を足止めするんですか。私が樹と関わるのが、気に入らないんですか?」


「違う。勇者の想い人とやらに、興味があったのは事実だ。だが今は、貴様のことを面白いと思っている」


玲央は陽葵の前に立とうとして、樹にそれを(はば)まれた。それでも彼は動じずに、樹の後ろに隠れた陽葵に向かって話しかける。


「貴様は我を恐れている。だというのに、勇者に頼り切ってはいない。どちらかといえば、勇者が貴様の意志を尊重して、守ろうとしているような……そんな風に感じるな。それがとても興味深い。魔法がない世界なら、我に勝てるとでも思っているのか?」


「……まさか」


陽葵は震える声で返した。届かないと分かっていても。樹の後ろから、玲央のいるであろう場所を見据えて。


「私は樹や夏穂ほど強くないし、戦えば負けるのは分かってます。でも、だからこそ。……あなたが明らかに自分よりも弱い人間に手を上げるような、そんな人じゃないって思うので。それならきっと大丈夫だって、そう考えているだけです」


精一杯の意思を込めて、玲央に向かって言葉をぶつけた。

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