波乱(中編)
「……陽葵。どうして君が……」
樹が目を見開く。彼は陽葵の隣に立って、ゆっくりと周囲を見渡した。
「グラントリー。君はまだ懲りていないのか」
彼の声が低くなる。けれども玲央は動じずに、陽葵を見つめながら告げた。
「いいや? お前たちに、危害を加えるつもりはないとも。ただその娘に、聞きたいことがあるだけだ」
「……私に何を聞きたいんですか」
陽葵は緊張で体を硬くしなから、彼の目をまっすぐに見返した。彼が興味深そうに、目を光らせる。
「ほう。度胸のある娘だな。流石は勇者の恋人だ」
「…………はい?」
急な恋人呼ばわりに、陽葵の思考が停止する。夏穂はジト目を樹に向けた。
「何、どういうこと? お前、また勝手なことをしたわけ?」
「勝手なことって……僕は陽葵のことを守りたかっただけだよ。それに彼らは、束になってかかってきても僕には敵わない。僕の側にいれば、陽葵は安心できるんだ」
樹が不満そうな顔をする。陽葵は困ったような、戸惑ったような表情になって口を開いた。
「……それはそうかもしれないけど。私はまだ、樹のことを受け入れるって決めたわけじゃないよ」
その言葉に、樹が寂しそうな様子で彼女を見つめる。どこかぎこちない2人に、玲央はからかうような口調で言った。
「なんだ。我を倒し、世界を救うほどの英雄が、女の1人も手に入れられぬとはな」
「……君には関係ないだろう」
樹が冷ややかな声を出す。彼は陽葵の肩を抱き寄せて、絞り出すように呟いた。
「僕のアイ。子供の頃から、ずっと君が好きだった。なのに。君のために戦って、帰ってきたら……君が、あの女に殺されていて。僕がどんなに悲しんだか……今度こそ、僕は君を守るんだ。たとえ君に嫌われても、僕は君が幸せに生きてくれるのならそれでいい」
悲痛な声に、陽葵だけでなく夏穂も驚く。玲央はそんな彼らを、面白そうに観察していた。
「……ほう? その女は、貴様がそこまで入れ込むほどの器量には見えんが……それとも何か、理由があるのか?」
「だから君には関係ないと……」
そう言いかけて。樹は、陽葵が彼の答えを待っていることに気づいた。彼は深いため息をついて、目を伏せる。
「…………別に、大した事じゃないよ。グラントリーが聞けば、そんなことかと笑うだろう。……子供の頃、アイと一緒に水汲みをした。その時、僕はまだ力が弱くて体力もなかった。男なのに、アイに頼ってばかりで、そんな自分が情けなくて。泣きそうになっていた僕に、君は笑って言ってくれたんだ。『落ち込まないで。アルトは男の子なんだから、大人になれば私よりもずっと逞しい人になるわ。その時は、アルトが私を助けてね』って……。僕は、あの時の君の笑顔がずっと忘れられなかった。それだけだ」




