波乱(前編)
電話の後も、母親は何も言わなかった。陽葵も何も聞かずに夕食を食べて、父親が帰ってくる頃には部屋に入る。そんな、普段と何も変わらない1日を過ごして、陽葵は次の日も元気に登校した。そして。
「……何の用かな」
「貴様に用はない。我が待っているのは他の人間だ」
校門前で睨み合っている2人の男子生徒を見て、彼女は思わず自転車を止めた。周囲には人だかりができており、生活指導もしている体育教師の栗川が、渋い顔で腕組みをしていた。
「陽葵。こっちこっち」
学校から少し離れた場所。電柱の陰から、夏穂が声をかけてくる。陽葵はコッソリと自転車を押して、彼女の側まで移動した。
「裏門から入ろうと思ったら、アイツの舎弟たちが陣取っててさ。正門まで回ってきたら、この騒ぎ。一体どうなってんだか」
「……えっと。多分私に会おうとしてるんだと思う。昨日、燕谷くんがそんな感じのことを言ってたから」
その言葉に、夏穂は眉間のシワを深める。
「ハア? 燕谷って誰」
「同じクラスの人。偶然、帰り道が一緒になったの」
「あっそう。それで、何でそいつが陽葵にそんな話をするの。わけわかんないし、それが事実なら尚更、陽葵を行かせることは出来ないよ。先生に言って、なんとかしてもらおう」
夏穂が栗川の方を見る。そんな彼女に向かって、陽葵は苦笑を浮かべて首を横に振ってみせた。
「……ううん、私が裏門に回る。そうしたら正門にいるあの人も……樹くんも、きっとそっちに来るだろうから。今日は乗り切れたとしても、明日も同じとは限らないでしょ。……それにこの前、先生も言ってた。昨日の燕谷くんと同じこと。あの人は、悪い人じゃないって……。夏穂が心配する気持ち、分かるよ。でも、きっと大丈夫。前世とは違うから」
陽葵はそう言って、夏穂が止める前に裏門へと向かった。夏穂は慌てて彼女を追う。裏門には夏穂の言葉通りに玲央の舎弟たちが待ち構えていて、彼らは陽葵を取り囲んで足止めした。1人の舎弟が、正門に向かって走っていく。彼は陽葵の予想通りに玲央を呼びに行き、色々な意味で目立つ2人は裏門側に移動してきた。栗川先生は2人を追いかけようとする生徒たちを……特に樹のファンである一部の女生徒を止めるのに忙しく、2人を見張ることは出来なかった。そうしているうちに夏穂も陽葵に追いついて、裏門にかつての魔王と勇者、そして仲間たちが揃う。
「……ったく。あの頃とは何もかも違うし、セラもレイフもエイミーも、ここには居ないってのに。陽葵がこんな無茶をするとはね」
少し息を荒げながら、夏穂が呟く。陽葵はその横で、困り顔で立っていた。




