帰宅
家に入って手を洗い、リビングで夕食ができるのを待っていると電話が鳴った。陽葵は立ち上がって、受話器を取る。
「もしもし、佐藤です」
「もしもし、陽葵? 今、話できる?」
受話器から聞こえてくる声に、陽葵は目を見開いた。
「……お姉ちゃん? どうして……」
「久しぶりに、陽葵と話がしたくなったの。高校生になったんでしょ? 学校はどう?」
「えっと……まだ入学したばっかりだし、夏穂としか話せてないけど。でも今日、同じクラスの男の子とちょっとだけ話したよ。帰り道がたまたま一緒になって」
「夏穂ちゃんかー。あなた達、昔から仲良しだったものね。でもその様子なら、学校で何かあったってことも無いのか」
「……まあ、うん」
姉と話しながら、陽葵は何となく察していた。キッチンで夕食を作っている母の方に視線を向けて、彼女は声を潜める。
「ねえ、もしかしてお姉ちゃんが急に電話をかけてきたのって、お母さんに頼まれたから?」
その言葉に。電話口から、ため息のような音が漏れ聞こえた。
「……あーあ、やっぱり気づいちゃうかぁ。あんまり、お母さんに心配をかけちゃダメよ」
「……うん。お姉ちゃんも、わざわざ電話かけさせちゃってごめんね」
「私はいいのよ。大学生って意外と暇だし。陽葵の声が聞きたかったのも本当だから。……それで、どうなの? お姉ちゃんで良かったら相談に乗るけど」
そう言われて、陽葵は少し迷いながら口を開く。
「……えっとね。大したことじゃないんだけど、その。お姉ちゃんは、高校生の頃に好きな人とか居た?」
妹の言葉に、電話口から聞こえる声が少し弾む。
「あら、あなたもそういうことを考える年になったのね。もしかして、さっき言ってた男の子に告白されたりした?」
「……う。え、えっと、さっき話した子じゃないんだけど……ちょっといいかなって思う子がいて。その子からも好かれてるみたいなんだけど、顔がいいから狙ってる子も多くって……。私じゃ、その子に相応しくないんじゃないかって、考えちゃうの」
「うーん、陽葵は相変わらず真面目ねぇ。恋愛なんて結局は当人同士の問題だし、相手が良いって言ってくれるのならそれでいいと思うけど。だいたい、他人がどう思おうと関係ないでしょ。その男の子のこと、信じられるかどうかじゃない?」
姉はサッパリとした口調で言い切って、最後に笑いながら付け加える。
「ま、私は彼氏なんて居たこともないけど。陽葵が嫌じゃないなら、お試しで付き合ってみるってのもアリだと思うな〜。そういう事は、あんまり深く考えない方が上手くいくよ。頑張ってね」
「…………うん。ありがとう、お姉ちゃん。少し楽になった」
「はーい。まあ、またいつでも連絡してくれていいから。夏休みには家に帰るね」
その言葉を最後に電話が切れる。陽葵は穏やかな笑みを浮かべて、受話器を置いた。




