1人より2人、2人より(後編)
「……仕方ないな」
樹が陽葵の首筋に触れて、柔らかな笑みを浮かべる。彼は彼女を抱いたまま、玲央の方を見て告げた。
「今日は、陽葵の気持ちを優先しよう。……君も一緒に」
「ああ」
少年は頷いて、2人の側に歩み寄る。陽葵は樹の胸に頭を預けたまま、小さな声で呟いた。
「……ごめんね。今は、2人に争ってほしくなくて」
「いや、お前からすれば当然だ。……むしろ気を使えなかった俺たちが悪い」
玲央が彼女の頭を撫でる。少女は詰めていた息を吐き出して、ようやく表情を和らげた。
「……そういうこと、考えたこともなかったの」
目線を落として、話し出す。その言葉を聞き逃さないようにしながら、少年たちは陽葵を連れて部屋に入った。扉が閉まり、彼女は続ける。
「でも、もし。誰かとするならって、思った時に。真っ先に浮かんだのは、樹くんと玲央くんだった。2人以外は、嫌だって……だけど、それでもどちらかは選べなくて。……きっと私は、最後までそうだ」
ゆっくりと。落とされる言葉に、2人は真剣な顔をする。そして少女が話し終わると、樹は笑って口を開いた。
「ならいっそ、3人で暮らそう。……決めたんだ。僕は大学には行かない。高校を卒業したら、グループの代表として就任すると。父のせいで、30万人以上の社員路頭に迷わせるのは申し訳なくてね」
初めて聞く彼の話に、陽葵は目を見開いて、玲央は真顔で続きを促す。樹は少女を抱えてソファに向かい、腰を下ろしながら話を続けた。
「社長ともなれば、勝手なことはできないだろう? 君の隣に、ずっと居続けるわけにもいかない。……そこで、その間のことは、玲央に任せておきたいんだ」
「……ほう、なるほど」
玲央が先に話の内容を理解して、ニヤリと笑う。彼は樹の隣に座って、陽葵の髪を指で梳いた。
「いいだろう、受けてやる。お前の部下になるのは癪だが、抜け駆けはしやすそうだからな」
一方で、少女は首を傾げていた。彼女が辛うじて理解できたのは、これからも3人で居られることだけ。そして陽葵にとっては、それだけで十分に嬉しかった。
「……よく分からないけど」
控えめな笑みを浮かべて、彼女は2人を交互に見る。
「つまり、2人が私に飽きるまで、側に居てくれるってことだよね。……ありがとう」
「そういうことになるのかな。まあ、要するに一生ってことだけど」
樹が明るく笑って言う。玲央も満足そうにしていた。陽葵は既に、2人に心を委ねている。どちらにとっても、後は時間を重ねるだけだ。勝負はまだついていない。そして一生つかなくとも良い。そう思えるほどに、彼女の笑みは美しかった。
次は短編の予定です。現代風異世界ファンタジー、姉妹もの、ザマァあり。




