1人より2人、2人より(前編)
春奈に手を引かれて、陽葵は客室に移動した。ソファに体を沈めた彼女に、鈴生がお茶とお菓子を運ぶ。
「おかわりが欲しい時は、お声がけください。私は対応できないかもしれませんが、メイドは他にもおりますので」
「それじゃあ、俺も。……形は女でも、中身は変えられないからな。お前を怖がらせるといけない」
2人はそう言って部屋を出ていく。残された少女は、目の前に置かれた紅茶のポットを見つめた。
(……あとちょっとで、取り返しのつかないことになってたんだ……)
最初は実感が湧かなかった。けれどじわじわと、足元から恐怖が這い上がってくる。
(どうしよう。1人だと、色々考えて落ち着けない)
彼女はそっと、入り口の方を見てため息をついた。
(声をかければ、誰かは来てくれる。……でも……今、私が会いたいのは)
悩んだ末に、陽葵はソファから立ち上がって、窓の近くに立った。少女はしばらくそこで待って、パトカーが動き出したのを見て部屋から出る。
(……今日、樹くんは忙しいだろうから……)
顔を上げて、周囲を見る。人影はない。それを確認して、彼女は部屋の扉を1つずつ開けて、中を確認していった。内装は同じで、人もいない。そうして、3部屋めの扉を開けようとした所で。
「陽葵。何してるの?」
後ろから、彼が声をかけてきた。会えないと思っていた人の姿に、陽葵は何度か瞬きする。
「……ええと。玲央くんの部屋を、探してて」
「なんで」
樹は微笑んでいたが、その表情には明らかに疲れが見えていた。それを気にして、彼女は目を伏せて呟く。
「1人が、嫌で」
「じゃあ、僕と居よう」
「いいよ。……色々あって、忙しいでしょ? 私のことなんて気にせずに、今日は早く……」
少女がその先を言う前に、少年は彼女の体を抱き寄せて、唇を重ねた。
「……そんな顔をしている君を、玲央に預けるわけがないだろ」
目を光らせて、彼が告げる。陽葵は何も言えなくなった。ただ、樹に身を委ねて目を閉じる。
「……もっと、ギュッとして」
「……うん」
少女の願いに、少年が応える。そして、彼女がゆっくりと彼の背中に腕を回そうとしたところで。
「何をしているんだ、お前たちは」
少し離れた部屋から、玲央が呆れ顔で出てきた。樹は陽葵の背を撫でながら、微笑む。
「遅かったね。……彼女には、僕がついているから大丈夫だよ」
2人の間で、火花が散る。それを見て、少女は不安そうにした。
「ま、待って。私はいいよ、3人で」
樹を見上げて、か細い声で口にする。そんな彼女に、2人は優しい眼差しを向けた。




