革命(中編)
「……間に合ったか」
そう言う玲央に陽葵を預けて、樹は屋敷の中に踏み入る。少女は戸惑ったような様子で、彼の後ろ姿を目で追った。
「……何があったの?」
「俺はそれまでの経緯を知らぬ。が、奴らがお前を汚そうとしていたことは聞いた。……奴らはお前を懐柔したかったのか……それとも、樹に諦めさせようとしたか。どちらにせよ、終わりだな。言い逃れのできぬ証拠は、既に俺が押さえている」
玲央の答えは、北風よりも冷たかった。その言葉の意味が、彼女には理解できなくて。首を傾げていると、彼は陽葵を抱き寄せて、その耳元で囁いた。
「心配するな。お前は無事で、奴らも牢に入れられる。人の決まりは、俺には理解しきれんが、こういう時には便利だな」
「樹、くんは……?」
これからどうなるのかと聞こうとして、少女は視線を彷徨わせた。少年は彼女の肩を抱いて、中庭の方に向かう。
「奴のことだ。自分は被害を受けないように、上手く立ち回るだろう」
玲央に連れられて、陽葵は庭を回って屋敷に入った。靴を脱いで室内に上がり、近くの空き部屋で寛いでいると、鈴生がお茶を持ってくる。
「申し訳ありません、佐藤様。御門家の事情に巻き込んでしまって……」
彼女も流石に疲れを顕にしていたが、それでも動きは丁寧だった。用意されたお茶に口をつけながら、陽葵は遠慮がちに問いかける。
「鈴生さんは、これからどうなさるんですか?」
「私は……この家の家政婦は皆、樹様に雇われております。お暇を言い渡されない限りは、このままお仕えできればと」
鈴生の答えに、少女は納得したような顔をする。その表情を観察しながら、老女は続けた。
「おそらくこの屋敷は、樹様の所有物となるでしょう。御門グループも、全て。ですから、樹様に愛されていらっしゃる佐藤様は、この家の女主人ということになります。……私どもは不備が無いよう、これからも精一杯勤めますので、どうぞよろしくお願いしますね」
そう、流れるように口にして、彼女は深々と頭を下げる。その姿を見て、陽葵は慌てた。
「別に、私は……」
彼女たちに不満はない。考えたことすらなかった。
(……辞めてほしい、なんて……)
そう言う前に、ドアが開く。外にいたのは春奈だった。彼女は陽葵と玲央に向かって告げる。
「警察が、2人の話も聞きたいそうだ。悪いが少しだけ付き合ってくれ。長くなることはないだろうから」
彼女の言葉を耳にして、鈴生はそっと隅に寄る。陽葵は言いかけたことを飲み込みながら、玲央と一緒に春奈の示す部屋に移った。




