式の翌日、部活の勧誘
翌朝。枕元に置いたスマホのアラーム音で、陽葵は目を覚ました。昨日と同じように顔を洗って、下に降りて朝食を食べる。彼女の母は昨日から元気がないことを心配して話しかけてきたが、彼女は上の空だった。
「……じゃあ、行ってくるね」
ご飯を食べ終わった彼女は、その言葉を残して家を出る。自転車をこいで学校に着くと、校門の前で樹が先輩たちに囲まれているのが目に入った。つい気になって、彼女は無警戒に自転車を止めて近づく。
「だから、僕には他にやりたいことがあるんですって……あ! 陽葵!」
不満そうな顔で先輩たちの相手をしていた樹が、陽葵の姿を見た瞬間に顔を輝かせて駆け寄ってくる。陽葵は慌てて踵を返そうとしたが少し遅く、アッサリと彼に捕まってしまった。
「おはよう、陽葵。僕ね、今色々な部活から勧誘されてて……でも君と一緒に居たいから、全部断ってたんだ。君はどこか、入りたい部活とかあるの?」
「……え。い、いや、別に……」
近くにいた女子生徒たちが、物凄い視線を向けてくる。それを避けるように、陽葵は目を伏せた。樹はそんな彼女を見て、スッと目を細めて周囲を見渡す。
「……何? 僕はこの子のことが好きだし、片時も離れたくないんだけど。文句でもあるの?」
その迫力に、女子生徒たちが怖気づく。先輩たちは陽葵にも声をかけようとしてきたが、それより先に樹が彼女の手を掴んで集団から抜け出す。
「行こう、陽葵。早くしないと遅刻しちゃうよ」
「え、いや、あの、でも」
陽葵は引きずられながら、先輩たちの方を見る。彼らは明らかに落胆していた。
「あれ、いいの?」
「うん。だってあの人たちの目的は自分たちの部を強くすることで、僕には関係ないからね。僕のことを本気で考えてくれてるなら、最初に嫌だといった時点で引いてくれてたはずだし。女の子たちも同じだよ。僕はちゃんと好きな人がいるって言ったのに、ちっとも諦めてくれないんだから」
樹は爽やかな笑顔で頷く。陽葵は彼に連れられたまま、小さな声で呟いた。
「でもそれは、当たり前だと思う。だって私みたいな子は、相応しくないもの。あなたに」
樹の足が止まる。彼は陽葵の腕を引いて、彼女を自分の胸に寄りかからせた。
「相応しくないって何。誰が決めるの。神様? それなら僕は、神様にだって逆らってみせるよ。僕はずっと君のことが好きだったし、これからも好きで居続ける。覚えておいて、陽葵。僕は君の味方だって」
少し怒ったような口調で、彼が告げる。陽葵はその腕の中で、戸惑いと照れが混ざったような顔で固まっていた。