玲央の画策
「……あの、前から聞こうと思ってたんすけど、玲央さんとあの男ってなんかあるんすか?」
樹が立ち去ってからしばらくして起き上がってきた舎弟の1人が、無事だった別の舎弟に手当をされながら口を開いた。玲央は彼の問いかけに、渋い顔をして答える。
「そうだな。話してやってもいいが……」
「えっ、なんすか。玲央さんがそんなに歯切れ悪いの、珍しいっすね」
「そりゃ、夢みたいな話だからね。オレたちは同じ立場だから信じてるけど、普通ならとても信じられないだろうし」
横で聞いていた舎弟の1人が口を挟む。アスファルトの上に倒れていた舎弟たちが段々と起き上がってきて、互いに怪我の手当をし合いながら玲央たちの話に耳を傾けた。
「でも、俺は聞きたいっすよ。皆もそうだと思います。玲央さんは親や教師がマトモに聞いてくれない俺たちの話を、いつも真剣に聞いてくれるから。俺たちも、玲央さんがマジな話をしてくれるなら、それがどんな内容だって信じますよ」
最初に話しだした舎弟が、玲央の顔を見ながら言葉を続ける。その横にいた舎弟は、無言で玲央に視線を向けた。
「……そうだな。そこまで言ってくれるのなら、お前たちには話しておこう」
やがて。玲央は真顔で、前世の話を語り始めた。力で魔族の頂点に立ち、彼らを率いて人間界を攻めたこと。地水火風の四大属性を極めた部下がいて、彼らを軍団の長としたこと。そして勇者に討たれ、この世界に転生したことを。舎弟たちは1度も茶々を入れず、彼の話を真剣に聞いた。そしてその話が終わった後に、横にいた舎弟が笑顔で告げる。
「ちなみにオレと薫は、前世からの玲央の部下だよ。まあ今は魔法なんて使えないし、他の皆と同じだけど。皆がよく知ってる理仁もそう。アイツには、オレたちと違って記憶はないけど」
「……マジすか。スゲー。てことはあと1人も、こっちにいるかもってことっすか?」
「かもしれないけど、オレたちはまだ会えてないなあ。理仁みたいに記憶がないパターンもあるし、積極的に探す気も無いよ。それと、このことは他の人には話さないでね。説明しても、分かってくれる人は居なさそうだし」
「はい、もちろん! 玲央さんとオレたちだけの秘密っすね! 任せてください!」
舎弟が元気よく宣言する。そんな彼を見て、玲央は少し表情を和らげた。
「俺たちが最も重視するのは、今も昔も強さだけだ。御門樹は自分が今でも強いことを証明してみせた。俺はあの男に殺されたことを恨んでなどいない。弱い者は淘汰される。それが世界の理だからな。……だが、あの男がわざわざ釘を差しに来たということは気になっている。奴がそこまでするほどの相手。それが俺たちより弱い女だというのなら尚更だ。陽葵と言ったか。彼女はおそらく、奴の仲間に守られている。俺はその女と、話してみたい。協力してくれるか?」
彼の言葉に、舎弟たちは無言で頷く。前世がどうだろうと関係ない。このグループのリーダーが彼であることには変わりないのだから。