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陽葵の悩み

陽葵(ひまり)夏穂(かほ)は、放置していた自転車を回収しに裏門の方へ回った。不良グループは、玲央(れお)と呼ばれた少年を含めて全員居なくなっている。


「……じゃあ、アタシはこっちだから。気をつけて帰ってね。また明日」


門を出たところで、夏穂は陽葵に笑いかけてから、自転車に乗って帰っていった。友人を見送った陽葵は、そのままこっそりと表側に回る。夏穂を助けるために無我夢中で(いつき)を呼びにいったのは、3時間ほど前のことだ。その時と比べれば、流石に人の数も減っている。


(正門にあった車も、移動してるし……)


樹はあの時、門の柱に寄りかかっていた。そして血相を変えた陽葵を見て、(わけ)も聞かずに一緒に来てくれた。


(……アルトは全然変わってなかった。あの頃から、ちっとも)


陽葵は自転車を押しながらトボトボと歩く。幼馴染は今も昔も、皆から愛される人気者だ。


(私、だって。アルトのこと、好きだった。人並みに、憧れてた。でも、私じゃアルトの隣には並べないと思ったから……だから1度は、諦めたのに)


王女様だけではない。アルトのパーティーには女性もいた。聖女と魔法使い。苦難の多い旅路(たびじ)を、共に乗り越えた仲間たち。彼女たちは、アルトに心を許しているように見えた。そしてアルトも。王女様との婚約を断ったのは、2人のうちのどちらかと恋仲だったからなのだろうと。アイルーズはそう思っていたのに。


(本当は、アルトはずっと私のことが好きだったんだ)


喜びと、ほんの少しの優越感。しかもアルトゥールは……御門(みかど)樹は、彼女のことを諦めないと宣言した。嬉しくないわけがない。


(私はどうしよう。どうしたら、いいんだろう)


佐藤陽葵に、好きな人は居なかった。彼女は少女マンガのヒロインに憧れながら平凡に生きて、いつか普通の人と結婚し、穏やかな生活を築くのだと。そう、漠然(ばくぜん)と考えていた。そんな彼女にとって、樹はマンガの中から出てきたかのような完璧な王子様だ。もしも彼女に、アイルーズとしての記憶がなければ。彼女は喜んで、その手を取っていたかもしれない。


(でも。ここで私がそうするのは、なんだか彼を利用しているみたいで……)


樹が陽葵に(こだわ)るのは、前世の記憶があるからだ。勝手に死んで、彼を傷つけて、その罪悪感に付け込む形で付き合うなんて。


(そんなの嫌だ。アルトにも樹くんにも、不誠実すぎる)


グルグルと悩みながら自転車を走らせて、彼女は家の前で止まる。


(もしも、何もなくても私が彼に釣り会えるような、そんな女の子だったら。こんな風に悩まなくても良かったのかな)


そう思いながら、陽葵は自転車から下りて、家の中に入っていった。

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