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プロローグ:村娘の死。そして転生

数千年もの長きに渡って続いた魔族と人間の戦争は、人間の勝利で幕を閉じた。その立役者となった勇者は、今日も故郷に入り浸っている。


「おめでとう、アルトゥール。お前は我が村の誇りだよ。でも、こんなところに居ていいのか?パーティーに呼ばれているんだろう」


「大丈夫ですよ。戦勝記念パーティーは終わりましたし、僕にはやるべきことがあるので」


ニッコリと、花が咲くように微笑んで。金髪碧眼の青年は、幼馴染に会いに行った。村の人々は、笑顔で彼を見送る。昔から、彼は非常に分かりやすかった。


「アイルーズも、そろそろ気づいてやればいいのに。お姫様との婚約まで断って、ここに通ってきてるんだから」


そんな声を背に、アルトゥールは走り出す。村の外れ。幼馴染の家に向かって。


(……あれ?)


その途中で。彼は嫌な予感がした。旅の中で、慣れてしまった臭いがする。鉄錆(てつさび)に似た、嫌な――


「……っ、アイっ!!」


扉は少し開いていた。争った形跡はない。その理由も、すぐに分かった。


「あら。お帰りなさいませ、勇者様。嫌ですわ。こんなところ、見せるつもりはなかったのに。貴方がこんなに早く来てしまうなんて。でも、これで貴方も分かってくださいますわよね? 貴方に相応しいのはこんな女ではない。私なんだって」


ナイフを握った血まみれの女。そのドレスには覚えがあった。この国の王女で、アルトゥールの婚約者候補だった女性だ。そして血溜まりに倒れているのは。


「……アイ。アイルーズ……」


呆然とした表情で、アルトゥールは呟く。彼が愛する少女は、驚きに目を見開いたまま死んでいた。殺されたのだ。そこにいる女に。


「……許さない……!」


彼は衝動のまま、腰に下げていた剣を振り抜いた。王女の首が、重い音を立てて落ちる。彼女の血の上に、王女の血が流れる。


「……アイ。アイルーズ。僕を見てくれ。なあ……」


声をかけても、揺すっても。彼女は帰ってこない。その体に、もう彼女の魂はない。


「……探しに、行かなきゃ」


アルトゥールは感情の消えた瞳で、赤く濡れた剣を手に取った。迷いはない。彼女のいない世界に、興味はないから。


「必ず見つけてみせるよ、アイ。たとえどれだけかかっても、君を。……そして今度は守り抜く。約束だ」


こうして、救国の英雄は自らの剣で首を切って死んだ。周囲がそのことに気づいたのは、それからしばらく経ってから。国王と王妃は大いに嘆いたが、もはや後の祭りだった。勇者の仲間たちも消息を絶ち、救われたはずの世界は再び混乱の渦に巻きこまれたが……それはまた、別の話である。

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