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見切らず発進


笑わなくなった。泣かなくなった。ただ生ける屍のようにぼんやりと生きている。

人生を彩りにできるチャンスを何回も見失った。きれいな顔と周りからも言われなくなった。テレビ番組に顔を出されるところだったが、それも辞退した。親とも不仲となってきた。ゴミ捨て場で隣人との会話も怯えてきた。

夢がある。けど夢をかなえない。時間は後戻りできないもんだから。

慰めることに、憩いの場だけマイスペースがある。ここは人からの目線を避けるから、私の救いとなったのだろう。閉鎖された廃棄ビルに、なぜかカギを手に入れたから。

夜も遅くなって、ビルの屋上から夜風を浴びながら車の往来をじっと見るのが好きだった。

世界で一番と捨てられたのは私だった。

「つまり唯一の救いは死。」

心の底からあれの声が上がった。




「子どもか?勝手に人の魂をわたがしの形にしないでくれる?」

「ごめんなさい」

便乗させてくれた女がさっきから知らない話しをバンバンと後ろの子に言ってあげている。

無知の知をじまんするわけではないけど、ただそれらを知らないことだけを知っている。

「魂?」

「あ、気にしなくていいよ。あの子のネイルの話しだから」

確かに後ろの子がネイルを弄っていると見えるなぁ。僕はファッションに関心が薄いから。まあいいっか。


後戻りしてきた。使っていた線路と並走してきた。

めがね橋よりかっこいいと言えないけど、こうして車窓から眺めて、壮絶的だね。おっと、大事なことを忘れかけていた。

「ちょっとごめん、その川の入れ口で少しくらい待って頂ければ…」

「いいけど、傘でもあまり意味ないほどの大雨だよ」

「川に降りて大事な人を祭りたい気持ちでここまで来ましたから」

「分かった。身の安全を最優先にしてください」

載せてくれた女に大変感謝。ここまで来たから。


川辺に水音と雨音が交わって響く。僕が朦朧な記憶に残った彼女が溺れた場所に、未開封のポテチ出した。そして、包装を引きちぎれて河原にばらばらとポテチを落とした。

「けっこう待っていた、一緒に帰ろう」

「戻って!」

雨音に覆われた叫び声に、増水の警報が鳴った。

僕、足が速いから、当然戻ったけど。女の子に怒られると、以外と気持ちいいことも分かった。

その後も無事に便乗して市街地に戻った。こんな大雨だから、きっと僅か数分で水位が上がっだろう。数年前のあの時は…いとこが救えなかったことは、僕の一生に苦痛をもたらすことだ。

「師匠!そのその人の背中に魂が付着しているけど」

「死神は除霊師ではないから、私たちの仕事ではない」

「私、なぜかあの子ならこの体を分け合えるんだ」

「悪霊だったら自ら災いを招くだよ」

「師匠が引き受けてくれた私も、悪霊じゃなかっただろう?」

「いつの間にか?」

「この体、しょせん人間の体じゃないから、住人が増えた方が寂しくないんだ」

眠い。雨音がいい子守唄だね。


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