お手並み拝見させてもらおう(おかりします)
この死相、ジャックポット的じゃない?と私の感想だった。とはいえ、特にメンタルの弱い死者のたましいが換金できるのは切手1枚分くらいの金額だ。
また雨の日の出動だ。九州北部のある閉鎖された林道に長駆した。レスキュー隊ほどの強度ではないが、レインブーツの半分を浸かった泥水を勢いで渡って、目に入ったのは、木を抱きしめる性別不明な遺体だった。住人が水害でなくなったのではなく、遊び半分の軽い気持ちで来たレジャー客だったかもしれない。だが、この場所が死神協会の内部出版物に掲載されたこともあった気がする。どうだろう。
と魂の居場所をスキャンしようとした時、遺体のポケットが光った。探って取ったら、ジッパー付きの収納袋に折り畳み式の携帯があった。携帯はロックされてなく、開くとメールソフトの画面に遺書みたいな下書きがあった。
それを読んだら、しょうもない話ばっかりだった。生きるのは苦しい?そして自分がある別の世界との繋がりがあったって?こうやって転生できるって?異世界っていう造語はなんだんだ?ツッコミしようとしてもどこからいいのがわからない。けど、遺体から離れないところに、水半分浸かった原付スクーターのシート下収納に何かがあるんだろう…おサイフがあったものの、遺体の所持金が千円札2枚程度だった。運転免許証とかも見つからなかった。
幸い自賠責保険に住所が記載された。
こんな時に初めて、ある考えが浮いてきた。どうして師匠周りの死神は、死んだ人のお金を活用しなかった?こんな社会と繋がりが薄い人の財産は、どこかに消えてゆくよりも、使われたらいいじゃないっと。
「とっとってっ」
遠くから師匠の叫び声だった。ああ、本職のたましい刈り作業を忘れた。とはいえ、このたましいも、水に溶かされないのね…防水たましいと非防水たましいの区別がないのは当たり前だけど…
と、作業しているうちに師匠に黙って自賠責保険の紙も取った。師匠の家の隣区だったし。その住所…私の名前と1文字同じだった気が…けど私が馴染んでいる人間は師匠くらいのはずだが…もしかしたら私がすでに死んだことを認識するのをこばんでいるだけだろうが…
「時間がかかったけど、よくやった」
師匠がほめてくれた。
帰り道に、別の死神が運転する軽トラとすれ違った。と思いきや、その軽トラがまた転回して追ってきて、師匠が運転する軽バンと荒れ果てたドライブインへ一緒に入った。
「よ、朽網ちゃんじゃない?」
軽トラに乗っているオスが師匠に声をかける。
「タバコ1本ちょうだい?」
師匠が傘をさして降りた。
その後の彼らの話が雨音に遮られた。けど、私が師匠のタバコを吸うシーンって1っ回も見たこともない。
その紙の住所に1回訪ねることを忘れないようにっと、脳内メモ帳に置いた。紙を忘れないように。神になれないんだ。