ついに来たる「黒船来航」
ー浦賀沖ー
海の新鮮な潮風が鼻先に漂ってくる。俺は小さい頃に海で遊んだ記憶を想起させた。懐かしい風情。
いや、そんなことを思い浸っている暇はない。どこに一体黒船とやらがいるのだろうか。
少し辺りを見渡すと人だかりができている場所があった。近づいてみると何人かが俺の方へ振り向いたのちに、なんだなんだと俺のもとへ走ってきた。
「あなた、岸辺総理大臣? そうでしょう?」
最初に話しかけてきたのは政界に詳しそうな中年の女性であった。彼女はまるで何かに怖気づいているような引きつった顔で俺に問いかけた。
「はい、そうです。わたくしが内閣総理大臣の岸辺総理大臣です。何かあるということで助けにならないかとここに来ました。」
女性は首を傾げて
「あなた、そんなことよりも会見とか開いたほうがいいんじゃないかしら? 一人で来てもいいものなの?」
と正論を洩らした。
俺はとりあえず政治活動の一環だとして問題が起きている場所へ連れていってもらうことにした。
近づくと黒い艦隊がアメリカ国旗を掲げて群を成してたたずんでいるのが見える。
住民の中には武装して追い払おうとうする強硬派もいたため、あの艦隊をどうやって撤退させるか住民同士で意見が激しく対立しており、緊張感が空気を密度を埋め尽くした。
「なんやあのかんてぇは! 今すぐにでも海上自衛隊が追い払ってくれなきゃ困るっぺ!」
「いいや、交渉するしか手段はない。誰か、英語を話せる人はいないのか!?」
「みんなで一斉に逃げましょう。回避こそ神が幸せを与える道に繋がるのですぞ!」
支持率が10パーしかない俺があの話に口を突っ込まば間違いなく海に投げ落とされることだろう。それほどまでに議論はヒートアップしていた。しかし、それも束の間さきほどまで止まっていたペリー艦隊は沖へどんどんと近づいてきていた。
住民は先ほどまでの強気な姿勢を一転させておびえ始めている。先ほどの強硬派のほとんどは怯えて逃げ出した。
「さて、どんな対応をしようかな。」
ペリー艦隊のデッキについた鉄柵からあの男が左右を見て日本を見渡していた。
あの男はそう、「ペリー。」
日本を開国させた男だ。