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六章 もうこのバスで再会することは無い


 リトルは停車しているバスに背を預け、煙ったい砂地の上に立っていた。



「迷子の坊っちゃん、もうじき警察が来るけれども、君はこのままいていいのかい? 身元確認なんてされても大丈夫なのかな」



 いつの間にかアレイがそばに立っていて、意地の悪い笑みを浮かべていたので、リトルはあからさまに嫌そうな表情を浮かべた。


「ご心配なく。それなりに立ち回るさ」


そう言ってからリトルはアレイを見上げ、眉間にシワを寄せた。


「お前、何者だ?」

「何者……か、そう訊かれれば非常に返答に困るね。不変者? 世に有らざる者? 世界の傍観者? とてもこの世の言葉では表しつくせない。それとも何か、坊っちゃんはワタシに未知なる言葉で説明する事を要求するかい?」



冗談めいた言葉を並べるアレイに、リトルは不服そうに顔を背けた。



「メアリーの前とはずいぶんと言い回しが違うようだな」

「申し訳ないね、ワタシは『定まらない者』なんだ。仕事柄、色々と『吸収する』のでね、自分の性格も、行動も、まとめられない。したがって、言論さえ、まとめられない」

「生憎、お前と言葉遊びをする気はない」


リトルがため息をついて言うと、アレイは楽しそうに笑った。


「まあ、今の自分を一言で表現するならば……ワタシはFBIさ」

言うとおり、アレイが出した手帳にはFBIの証が記されていた。


リトルが驚いたように目を丸くしていると、アレイはリトルの心臓の辺りを指差した。


「服、破けてるよ。あの男、運転の腕は最悪だけど、射撃の腕はなかなかだったようだね」

見ると、リトルの心臓の辺りの服に穴があいていた。

「ま、あの至近距離で当たらない方が不思議だけどね」


リトルは穴を覆うように自分の心臓に手を当てた。


「貴様、何者だ」

「さっきも言った通り、FBIさ。今はね。けれど、キミの質問に答えるとしたら……」

アレイは少年の容姿に似合わぬ大人びた笑みを浮かべ、自分の胸を親指で指した。



「キミとワタシは同類だ」



アレイはリトルの隣に立ち、バスに背を預けて砂漠の遠くを見つめた。


「一度繋がってしまった縁はなかなか切れない。坊っちゃんとはきっとまた会うだろうな」

「ふん、迷惑だ」

「ありゃりゃ、会ったばかりなのにずいぶんと嫌われちゃったもんですねぃ」

「ボクはファーストインプレッションで全てを決める性質でね」

「そんな冗談を言ってくれるほど仲良くなれたことを光栄に思うよ」

「その口、縫うぞ」

「それはカンベン」

アレイは手をひらひらと振って涼やかに笑った後、バスのほうへ向かって歩いて行った。




 アレイがバスの中に消えてから、リトルは不機嫌そうに腕を組んだ。


「ふん、食えん男だ」


―― ふふ、眉間にシワなんか寄せちゃダメよ、リトル。


 隣から声が聞こえた気がして驚いて自分の左隣を見ても、そこにはただ砂地が広がっているだけだった。

リトルは少し首を傾けて、瞳を細めた。

「忘れないよ、メアリー。また巡り会うその日まで、忘れないよ」




―― だからそれまで……さよなら。




   




――「粋、なに書いてんの?」

ふと声を掛けられ、声のするほうを見ると、制服の上着を椅子の背もたれに掛けながらこちらに視線を向けている藤巻英人がいた。


粋は書き終えた手紙を丁寧に折って、真っ白な封筒に入れた。


「……少しだけ、昔を思い出していただけさ」


 粋は封筒を見つめた後、机に置いていたマッチを手に取り火をつけた。

火を封筒にうつすと、封筒は端の方からゆっくりと燃えていった。



「あれ、手紙……送らないの?」

英人が不思議そうに聞くと、粋は燃える手紙を灰皿に置き、机に頬杖を付いて瞳を閉じた。

「あぁ」



 黒い灰皿に置かれた燃える手紙を見て、英人は優しく微笑んだ。


「楽しそうだね」

「楽しそう? なぜ?」


粋が目を開いて不思議そうに見返すと、英人はからかうように笑って、自分の眉間に指を当てて見せた。


「いつもみたいに気難しい顔してないから」


粋は虚を突かれたように目を丸くしてから、


「ああ」

手紙を愛おしそうに見つめ、少し微笑んだ。







メアリー、そっちも楽しんでるかい?







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