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あなたが転生する異世界はこちらです  作者: 襟須遥


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02 あなたの座標に精霊を配置しました

「……ここは?」


「ここは魂の世界です」


「魂の……世界?」


 その女性の声は混乱していた。


「たしか……あれ、私は火事に巻き込まれて……死んだんじゃ……」


「そうですね。でも、あなたは違う世界で生きる事ができる」


「え、……やり直す事ができるんですか!」


 とたんに女性の声が明るくなる。

 そしてミツルはそれを聞いて、一安心するのだ。


 なぜなら、転生を無理やりしてしまう形になると、後々恨まれてしまいそうだから。


「ありがとうございます、神様!」


「あ、いや、神様ではないんですけど」


 それが最後の言葉となり、通信が途絶えた。


 ミツルは、ヘッドセットを外すと、椅子から立ち上がる。


「ふぇー緊張したぁーー」


 記念すべき、初転生支援だ。


「珍しいタイプの方ね」


 白根が後方のソファに座りながら、そう淡々と評価する。


「そうなんですか?」


「基本は死の受け入れに時間がかかるし、それに転生だなんて言っても、……まぁ基本は動揺されるものよ」


 それもそうか、とミツルは頷く。


「あ、あの……今俺が送った世界は、どんな世界なんですか?」


 もし相手に聞かれても、俺が知らなかったら答えられない……なんてことになってしまう。


「今新羽君にお願いしてるのは、W501という名前で管理している世界よ」


 W501……ワールドの通し番号ということか。


「自然豊かで素敵な世界よ。自分で中を見てみる?」


「え、そんなこと出来るんですか?」


「左下に『観測モード』ってボタンあるでしょ?」


 ミツルは再度デスクへと向かう。


「観測……モード?」


 ヘッドセットを付けると、それは視界に突如現れた。


「あ、ありました」


 空中で指を動かしてボタンを押す。

 ブゥンという起動音がしたかと思うと、視界が暗転する。


 惑星のマークのようなものが、いくつも現れる。

 よく見ると名前が一つ一つに書いてある。


「これか……」


 W501と書かれたものを見つけると、それを選択する。


 次の瞬間、目の前の闇が光に染まり、瞬きする間に圧倒的な光景が広がった。


「うわ……!」


 思わず声が出て、一歩後ろにたじろぎそうになる。


 視界を埋め尽くしたのは、息をのむほど鮮やかな、どこまでも続くエメラルドグリーンの木々。


 ミツルの身体は、まるで雲の上から世界を見下ろしているかのように、はるか上空に浮いている。

 下を見ると、蛇行しながらきらきらと輝く巨大な大河、そして深い緑を茂らせた広大な森が広がっていた。


「すご……綺麗だ……」


「でしょ? それが『観測モード』。神様の視点で、その世界の時間を覗き見ることができるの」


 ヘッドセットの向こうから白根の声が聞こえる。


 少し遠くへ目を向けると、中世ヨーロッパを思わせる、レンガ造りの美しい街並みが見えた。


「これ、もっと近くで見ることもできるんですか?」


「ええ。念じれば、その場所に移動できるわ」


 なんて高性能な機械なんだろう。


「……あとは、さっきあなたが転生させた女性の様子を見たりだとか」


 その言葉を聞いて、ミツルのやることは決まった。


「白根さん、さっきの人の様子が見たいです」


「それなら右側の転生者履歴を選択してみなさい」


「はい」


 言われた通りに触れてみると、唯一の履歴が残っていた。


【転生者履歴:NO.00001】


 もう一度触れてみたと同時に、機械音がし始める。

 そして、目の前に広がっていた森林が、何か変な挙動をしている。


 もう一つ目に入ったのが、画面上部にある数字。

 これがもの凄い勢いで減っている。

 森林も少しずつ規模が狭くなり、街の方も無くなっていく。


 そして【標準暦100年】という表示で止まる。


「もしかして、過去の世界に転生させてしまったんじゃ……」


「……あー、そういえば最初は設定が遠い過去になっていたわね」


 大変な事をしてしまった。

 きっと、今の女性には


『こんなとこに転生させやがって……』


 とでも思われていそうだ。


「白根さん、なんとか修正できませんか?」


「無理よ。私達はこの世界に送り出すことしかできないの」


 その言い方は冷酷に聞こえた。

 白根友里恵という人間の一面を垣間見た気がした。


「まぁ、少し干渉したりはできるけど……」


 視界は動いていき、さっきまで見えていた街のあった場所に移動する。


「あっ……」


 見つけた。


 街のあった場所は、乾燥した土地だったようで、女性は苦しそうな表情を浮かべながら歩いている。


 だが――。


 目は死んでいない。


 過酷な環境に放り込んでしまった罪悪感で押し潰されそうだったミツルはだが、その瞳を見て思わず息を呑んだ。


「白根さん、さっき『少し干渉したりはできる』って言いましたよね!?」


 どうにかして、彼女の助けになりたい。


「それって、どうやるんですか?」


「基本的には、メッセージを伝えるくらいね」


「え、それじゃあ……」


 この状況でメッセージだけで解決できることなんて。

 謝罪を伝えた所で、彼女の手助けにはならない。


「どうしよう……」


「……今回は、私も伝え忘れていたってことで、特別ね」


 白根は仮想キーボードを取り出すと、何やら入力を始める。


「白根さん、……いったい何を――」


 軽快な手捌きを続けると、白根がニヤリとして右手を振り上げる。


「この女性の座標に、精霊を配置したわ」


「精霊……ですか?」


「そう。人々の心を映し、人々と共生していく、そんな自然の存在」


 そう説明された所で、ミツルは理解できないままでいた。


 だって、現実世界に精霊などいないから。


「まぁ、とにかくもう大丈夫よ」


 その声と同時に、画面上部の数字が進んでいく。


 そして【標準暦821年】という表示で止まる。


「……700年前の世界だったのか」


 一息ついて、ミツルはヘッドセットを外す。


「はい、新羽君。今回の事で何が分かった?」


 色々な感情が渋滞していたが、深呼吸を一回挟む。

 そして、今までの情報を振り返る。


「ええと、まず……」


 白根がこの仕事をパズルに例えたのが、なんとなく理解できてきた。


「本来長く生きるはずだった魂を、仮想の世界で再生させるのが、僕たちの仕事……という事ですね」


「そうね」


 白根は足を組みながら、話を続ける。


「亡くなった方がどのような方かを把握して、その方に合った世界、合った場所に送る必要があります」


「でもそれなら、この異世界の事を僕がちゃんと知っておかないといけませんよね?」


「ふふ、ご名答。今の新羽君に必要なのは、世界の『ルール』を覚えることね」


 白根は満足そうに口元を緩めると、デスクの端をトントンと叩いた。


「新羽君が新作のパズルを解く時、まず最初に何をする?」


「ええと、……まずどんなパズルなのかを見ますね。どういう種類のパズルかを考えて、盤面を見てそれを判断します」


 うんうん、と白根は頷く。


「それをこの異世界に置き換えてみて」


「え――、まずこの世界の性質ですね。魔法の世界なのか、戦いの世界なのか……」


 ミツルは再びヘッドセットを装着する。


 『観測モード』を押すと、先ほど視界に映っていた街へと視点を移す。


 中世ヨーロッパのような街並みの中には、馬小屋があったり馬車の姿が見えたり。

 人々が歩いて広場の中央付近に向かっている。

 そこに目を向けると、井戸があった。

 井戸から水を汲んでは、それを持ってきた大きめの容器にいれる。


 昔の地球の様子だと言われたら、信じてしまうかもしれない。


「魔法が存在するかどうかは……ちょっと分からないですが、少なくとも日常生活では使われていないようですね」


「そう、いい着眼点ね」


 白根はソファーに背を預けたまま、満足そうに指をパチンと鳴らした。


「他にはどう?」


 ミツルは視点を街から引いてみる。


 陸地の端が見えてくると、段々とこの世界の地形が見えてくる。


 街を囲む鮮やかな森の緑と、その隙間を縫うように流れる二つの川。


 ヘッドセットの中で、ミツルはさらに視点を引いた。


 さっきまで見えていた森や大河は一つの景色となり、海がその周囲を囲んでいる。


「こんなに広い世界だったのか……」


 まだ全体像は見えないが、今まで眺めていた場所は大陸のほんの一部に過ぎなかったらしい。


 視線を横へ滑らせる。


 せっかくなら、全く違う場所も見てみたい。


 同じ世界でも地域が変われば、人々の暮らしや文化も違うはずだ。


 ミツルは、今まで観測していた場所から大きく離れた土地へと移動した。


「……あれ?」


 遠くの平原で、茶色い土煙が帯のように立ち上っている。


 何千人、いや何万人という人影が入り乱れ、地面を揺らしているようだった。


「戦争……?」


 思わず息を呑む。


 平和そうな森ばかり見ていたせいか、その光景は異質だった。


「文明を見るにはちょうどいいかもしれないな……」


 ミツルは独り言を漏らす。


 戦争は、その国の文明や技術が最も表に出る場であると、先生が授業で言っていた気がする。


 武器、防具、隊列、通信手段。


 この世界がどの程度まで発展しているのか、知るには絶好の機会かもしれない。


 視点をゆっくりと戦場へ近づける。


 兵士たちは剣や槍を持ち、盾を構えながらぶつかり合っていた。


 弓兵が矢を放ち、騎馬隊が敵陣へ突撃する。


「……思ったより普通だ」


 魔法が飛び交うような派手な戦場を想像していたが、戦い方は現実の歴史で想像してた物と大きく変わらない。


 火を噴く兵器もなければ、空を飛ぶ魔物も見当たらない。


 そう思った、その時だった。


「……ん?」


 戦場の中央から少し離れた場所。

 一人だけ高い台の上に立っている人物がいた。


 女性だ。


 鎧姿ではなく、どこか儀式用のような服を身にまとっている。

 周囲には護衛らしき兵士が集まり、その女性だけが妙に目立っていた。


「あの人、何をしてるんだ?」


 ミツルはさらに視点を寄せる。


 女性は両手を前や上に向けたり、何かを必死に叫んでいるようだった。


 口が大きく開き、身振りも大きい。


「ただの女性の指揮官……?」


 一瞬そう思った。


 だが、兵士へ指示を出しているにしては動きが不自然か。


「いったい何を言ってるんだ……?」


 しかし観測モードでは、音までは届かない。


 ただ、その女性の存在が、この世界の象徴であるような……、なんとなくそんな気がした。


 ミツルは無意識のうちに、その光景を見つめ続けていた。


「……くん?」


「……新羽君?」


 白根の声で、はっと現実へ引き戻される。


「え?」


 ミツルは慌ててヘッドセットを外した。


「すいません、ボーッとしてしまいました」


「随分見入っていたわね」


「あの人が……どうしても気になって」


 白根は小さく笑う。


「それでいいの」


「え?」


「その『気になる』という感覚が、この仕事では一番大事だから」


《新しいメッセージが1件あります》


 不意に音声案内が響く。


「え?……なんだろう?」


 ミツルがメッセージを開封する。


《1件目のメッセージ、本日、19時54分、転生者番号:NO.00001様、より。ミツルさん、本当にありがとうございました。》


「なんで、僕にメールが……?」


「ああ、それね。私が送ったの」


「白根さんが?」


「あなたが彼女の事を心配してたから、ちょっとね」


 そう言うと白根は、どこかイタズラした子どものように、小さく笑った。


 ミツルは首を傾げる。


「なんて送ったんですか?」


「確認してみなさい」


 ミツルは送信履歴のページを見つけると、そこにある唯一のメッセージを見つける。


 そこには、一文だけ単調にこう書かれていた。


『あなたの座標に精霊を配置しました』

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