魔物も人もダメにするスイーツ
あれから数日、私はアイスクリーム屋さんになったのかな? というくらい、ひたすらアイスクリームを作っている。
「美味いな」
特に、アイスクリームがお気に入りなのは、魔王様ではなく、まさかの序列二位竜人ラディアス様。
作って下さる料理の味からして、味のついたものは食べないのかな? と想像していただけに、意外。
……まさか、野外料理しかしたことのないお方に、料理をさせていたなんて。ザハール様もチャレンジャーよね。
私だったら、自分で作り方を調べて、作るに違いないわ。そういうところが、王族の考え方というところかしら?
う〜ん。私も、ずっと置いていただけるとは思えないから、今のうちにザハール様にお料理をお教えした方が良いのかもしれないわ。
自分で作れば、私がいなくなっても、毒の心配はないものね?
そんなことを思いながら、なぜか胸が痛んで、小首をかしげる。
なぜかしら、この場所から出て行けと言われたら、とても悲しいかもしれない。
「……もっとないのか?」
「あ……」
ラディアス様の催促の言葉に、顔を上げる。
目の前には、顔の一部を淡い水色の竜の鱗で覆われていることと、感情が昂ったときに縦に開く瞳孔以外は人間と全く変わらないお姿。
美しい銀の髪と瞳。憧れの竜人様がニコニコとご機嫌なので、その美貌に思わず視線が釘付けになる。
……もっと食べたいと言っていただけて、本当にうれしい。
……でも、限界なのですごめんなさい。
「……あの、大変申し上げにくいのですが」
「なんだ?」
「材料は、ラディアス様とザハール様が……狩ってきて? 下さったのでたくさんあるのです。ただ」
「ただ、なんだ?」
「申し訳ありません。力及ばず、私の魔力が、もう枯渇直前なのです!」
「っ……!」
その瞬間、ラディアス様の瞳孔が縦に細められた。怒らせてしまったのかしら? 私にもっと魔力があれば……。
ところが、ラディアス様は怒るどころか、なぜかとても焦ったようで、私をガバリと荷物のように肩に乗せ一目散に魔王城の廊下を走り出した。
ラディアス様の背中しか見えない状況に、軽く混乱したのも束の間、次に私を襲ったのは、猛烈な速度と揺れだった。
「えっ、きゃ! ラディアス様?!」
「死ぬな! すぐに医務官に診てもらう!」
「えっ、死なな……。うにゃっ!」
魔力は、枯渇しきったわけではないから、大丈夫なのに。死ぬはずないのに。
皆さん、いくら人間が皆様よりは弱いからといって、これくらいで死んだりしませんよ?
そんなことを言ったら、少しの衝撃で命を落とすマンボウみたいじゃないですか!
うぅ、本当にラディアス様もお優しいのね……。でも、この揺れと圧迫、むしろ辛いです……。
それを伝えたいのに、揺れとお腹の圧迫で、声も出せないまま、乗り物酔いみたいな状態と、魔力枯渇直前で、本当に体調を崩してしまった私は、そのまま医務室へと運び込まれてしまったのだった。
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