とりあえずスイーツは別腹です
「それでは早速、厨房をお借りします!」
「……今食べたばかりだが?」
「口直しに甘いスイーツなど、いかがでしょう」
魔力は、弱いのだけれど、なんと私、リリアンヌは、全属性使えるのだ!
まあ、あまり強力な魔法は使えないけれど、とても便利、お風呂だって魔法で水を貯めて沸かして入れるの!
……そう、辺境伯で虐げられていたといってもいい私には、お風呂の手伝いをしてくれる侍女の一人もいなかった。
うーん、リリアンヌの生い立ち、自分のことなんだけれど気の毒になってくる。
甘いものなんて、ほとんど食べたことがないけれど、既にこの三日間で、魔王城の厨房には食材が溢れかえっていることはリサーチ済みだ。
「……あ、甘いものはお嫌いですか?」
「いや、食べたことがないだけで、嫌いというわけでは……」
「えっ!」
甘いものを食べたことがない? あの至福の時間を知らないとおっしゃる?
「な、なんだその顔は」
私は、ザハール様の手を思いっきり掴んで、歩き出した。
「とりあえず、アイスクリームにしましょう。氷魔法が使えるので、すぐにできます」
新鮮な牛乳と、生クリーム。卵黄にお砂糖。
混ぜて溶かして、氷魔法で冷やしながらかき混ぜれば……。
「ふ、ふふ。冷凍庫では、なかなかできない、滑らかなアイスクリーム!」
じっと見つめているところを見ると、ザハール様は、興味はあるようね。
でも、お約束だから、とりあえず毒味を……。
「うっわぁ! さすが、魔王城の極上の材料!」
それはまさに、ファンタジーという表現がぴったりな美味しさだった。
「はいっ、ザハール様!」
「は…………?」
あれっ? ちゃんと、毒味もしたし、使ったのもここにある材料だけですよ?
「ザハール様! 安全は確認しております!」
「え? あ、ああ……」
パクリと、ザハール様がスプーンを口に含む。
その瞬間、アイスクリームを久しぶりに食べることができた興奮が急速に覚める。
私の頬が真っ赤に染まるのを眺めていたザハール様が、ニヤリと笑う。
「なんだ、誘惑でもしてきたのかと思ったが」
「そ、そんなわけないでしょう! ただ、あまりに美味しいし溶けちゃうから、すぐ食べてほしいと思っただけです!」
「ふーん。そうか、もう一口」
完全に、からかわれているけれど、私がしてしまったことだから、仕方がない。
先ほどとは違って、動揺のあまり震える指先でアイスクリームをすくう。
差し出されたスプーンは、もう一度ザハール様の口の中に吸い込まれていった。
……ザハール様は、アイスクリームがお気に召したらしい。
手が震えてしまったせいで、汚れてしまった唇をペロリと舐める姿は、壮絶なほど色気がある。
「また作るといい。……そうだな、バランホルムの乳と生クリーム。ガーダベイナの卵か。討伐の帰りにでも、持ち帰ってやろう」
「え? なんですか、それ」
本の中でしか見たことがない生き物の名前。
その全てが、人間の王国であれば災害級危険生物に指定されている。
倒そうとすれば、騎士団の総力戦になるに違いない。
それでも、魔王様やレオン様の敵ではないそうだ。戦力パラメーターが、壊れているのかな?
「……でも、もし手に入れていただけたなら、絶品すぎるから、一緒に働く皆さまにも今度はぜひ作ってあげたいです」
「そうか」
なんでもないことのように約束してくれたザハール様。よっぽどお気に召されたのか、翌日には大量の材料が、私の元に届いた。
凍らせるための魔力、足りるかしら?
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