三食、私が作ります!
「よく食べるな。……しかし、口に合わないか?」
正直に言うなら美味しくない。
でも、そんなこと表に出さないようにしていたから、思わず手を止めて固まってしまう。
そんな、出された食事に不満を言うなんて……。
「はっきり言ってみろ」
「怒りませんか?」
「聞いておいて怒るほど、俺は狭量ではない」
チラリと上目遣いに見てしまったのは、許してほしい。
でも、ザハール様の表情は穏やかだ。けれど、返事を待っているかのように、私のことを見つめている。
「……あまりに味がしなくて、味気ないので」
そのことを指摘すると、ザハール様は赤い瞳を軽く見開く。
「……そうか。俺は慣れてしまったが、味がないと食べられないか」
……慣れてしまった? 慣れたってことは、美味しいと思って食べていると言うわけでもないですよね?
「あの……」
「毒を盛られるリスクを減らすなら、できる限り信頼できる相手に作らせるしかないからな」
「…………えっと、今日これを作った人は」
「ああ、レオンだ」
ぽわんっと浮かんだのは、生肉を親切心から差し出してくださった犬耳騎士レオン様の笑顔だった。
「えっと、いつもレオン様が作っていらっしゃるのですか?」
「いや、序列二位ラディアスが作ることもあるな。何の肉かわからない上に、味付けもやはりないが、慣れたな」
たぶん、犬耳騎士様と、竜族の序列二位様は、私たちと味覚が違うのでは……。
もちろん、魔王であるザハール様が、私と同じ味覚かは、わからないけれど……。
ううん、慣れたという言葉には違和感がある。
慣れてはいけないし、私も慣れたくないです!
「あ、あのっ! 差し出がましいのですがっ」
「なんだ、リリアンヌ」
「一緒に私と食べてくださるのなら、毒味ができます! もし許していただけるのなら、明日の朝からご飯は私に作らせていただけませんか?! 出来れば、昼も私が食堂で食べるのではなく、お弁当作りますから、一緒に食べませんか?」
シーンッと、耳が痛いほどの静寂。
毒が恐ろしいという気持ちは、よくわかる。
私の食事にも……。思い出すのも恐ろしい。
あの時もし、乙女ゲームのシナリオを知らなければ、一週間以上生死の境を彷徨うことになったに違いない。
でも、流石に不敬すぎたかしら?
ドクドクいっている心臓の上を無意識に押さえる。私のことを、なぜかぼんやり見つめていたザハール様が、ふぅとため息をついた。
「……とくに、リリアンヌにメリットがない」
メリット? 毒を警戒しなくてはいけない人のために、安心な食事を作ることに、メリットとかデメリットなんて関係あるのかしら?
でも、そう言うならば、メリットを伝えたほうがいいのかもしれないわ?
「えっと、料理はむしろ大好きなのです。それに、私も美味しいというか、味のついたご飯食べたいですし……。一緒に食べてくださるザハール様にも、出来れば味のあるご飯を食べてほしいですし……。えっと、ダメですか?」
ここぞとばかりに、ウルウルと上目遣いで見つめてみた。悪役令嬢であるリリアンヌのビジュアルは、悪くないはずなのだ。それが、たとえガワだけにしても。
「……う」
結局、私は三食の食事を作る権利をもぎ取った。
そして、もちろん悪用する気はないけれど、魔王であるザハール様の危機管理が少し心配になってしまった。
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