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御馳走は……。食生活に改善の余地があります。



「あの、本当にご一緒していいのですか?」


 扉を開くと、大きな部屋の端から端まで続く長いテーブルが目に入る。

 給仕担当の羽が生えた男性が静かに立っているだけで、ほかに人はいない静かな空間だ。


 てっきり、おこぼれを少し分けてもらって、別室で食べるものだと思っていた私は、なぜかザハール様の隣の席を進められて困惑を隠せなかった。


「――――人間とは言っても、辺境伯の令嬢だったのだろう? まさか、召使いと一緒の場所で、食事させるわけにもいくまい」


 そのお心遣いはうれしいのですが、私は下女ですよ?

 少しずれているような魔王様の感覚に首をかしげながらも、ちょっと怖い顔で促されてしまったので慌てて席に着く。


 辺境伯令嬢とはいっても母は早くに亡くなって、私は義母と義妹に虐げられて育った。

 父親もいつも政略結婚で結婚した母がいなくなってからは、義母と義妹を優先して、母と同じ赤い髪と黄昏のような金の瞳をした私には見向きもしなかった。


 それは乙女ゲームの悪役令嬢リリアンヌの設定であり、ここまでの私の人生でもある。


 そんな娘が、政略的な婚約を次々とお断りしていったら、厄介払いもしたくなるに違いない。

 たぶん、最初は神殿送りにしようと思っていたのでしょうね……。

 ちらりと、魔王様に視線を向ける。


 でも、聖女が誕生せずに、魔王の花嫁を選ぶことになってしまった……。

 高位貴族の娘は、ほとんど婚約していて、しかもヒロインも結婚してしまっているから、私に白羽の矢が立つのは、必然だったのよね。


 断罪と、魔王の花嫁。第一印象で選ぶのなら、断罪の方だったかもしれないわ……。


「どうした。ちゃんと、肉には火を通してある。弱弱しい人間でも、問題なく食べられるはずだが?」


「…………どうして」


「ん?」


「どうして、皆さん、こんなに良くしてくださるのですか?」


 初めのうちは、誰もが人間がなぜこんなところにいるのかと驚く。

 けれど、一生懸命働いて、笑顔で接していれば、邪険にする人なんて一人もいない。

 犬耳騎士のレオン様も、猫耳メイドのミーシャも、本当に気を使って良くしてくれる。


 人間のことを脆弱だとなぜか思い込んでいるから、過剰なほどに大切にされているわ……。


「――――リリアンヌこそ」


「え?」


「リリアンヌが、まじめで、話に聞くような人間の貴族とは違うということはすぐにわかる」


「…………それは」


 それは、私の生い立ちと、前世の記憶が関係しているに違いないわ……。

 たぶん、辺境伯に送り返されたら、今度はどこに送り込まれるかわからないもの。

 必死に頑張っているだけなのに……。


「だから、少しだけ興味を持っただけだ」


「そうですか……」


 つまり、人間が物珍しいから、少し興味を持って構ってみたという認識が近いでしょうね?

 それならば、もっともっと頑張らなくてはいけないようです。


「とにかく、きちんと食べるように」


「はい!」


 魔王様が食べているものとは、明らかに別に作ってくれている火の通ったお肉。

 そして、サラダにスープ。パン。


 お肉には味がなく、サラダも自然のまま。

 スープには出汁がきいていないし、パンはパサパサ硬い。


 ……えっと、人間に対する嫌がらせというわけではないわよね?


 辺境伯では虐げられ令嬢だった認識はあるけれど、この食事はなかなかワイルドだ……。

 魔王様のほうを見るけれど、特に何の感慨もないというように、ナイフとフォークで優雅に召し上がっている。もちろん、ステーキにソースやスパイスがかかっているようには見えない。


 でも、途中で食べさせてもらった魔王軍の食堂のご飯は、とっても美味しかったわ?


 まずは、ザハール様の食生活の改善が急務……。

 お残しはしない主義の私は、味気ない夕食を必死になって食べたのだった。

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