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無事雇っていただけました。しかも好待遇です!



「…………どういうつもりだ」


 本日も、黒で統一された麗しい衣装をお召しになった魔王様は、開口一番、背筋が凍るような麗しくも恐ろしい声音で私に質問を投げかけた。

 けれど、質問の趣旨がいまいち掴み切れず、私は首をかしげる。


「……あの、ご迷惑をおかけしたでしょうか」


 そんなことを聞きながら、我ながら迷惑をおかけしている自覚はあるので、図々しいにもほどがあると思わなくはない。

 三日間いてわかったことだけれど、魔物の国ガルベスには、少なくとも魔王城には人間の姿がない。

 つまり、私は明らかに招かれざる客ということよね……。


 ふと見上げた魔王様。その瞳は深紅で、この世界に生まれてから見たことがない色合い。

 でも、それ以外は、魔王様の姿かたちは、人間と変わりないように見える。


 …………どうしてなのかしら? 乙女ゲームの隠し攻略対象者だからなの?


 見つめすぎてしまったのか、魔王様がふいっと顔を背ける。

 高貴なお方に対して、失礼なことをしてしまったわ……。

 えっと、質問は、どういうつもりかだったわね?


「あの……。下女として役に立つところをお見せしようと」


「下女?」


 忘れてしまったのだろうか。たった三日前の会話だけれど、私は下女としてここにおいて欲しいと頼んだはずなのに……。


「あの、申し訳ありません。せめて、この国にいることをお許しいただけないでしょうか」


「…………リリアンヌは、働き過ぎではないかと言おうと思ったのだが……。朝から晩まで働き通しらしいな? 聞くところによると、人間は脆弱で、雨に濡れただけで死んでしまうそうではないか」


 ――――その誤解! いいえ、確かに雨に濡れたことがきっかけで肺炎を起こすことだってあるかもしれないけれど、そこまで人間は、少なくとも私は弱くないわ。風邪をひいたこともないもの。

 いったい、ガルベス国の人間に対する認識は、誰が植え付けたのかしら?


「あの、それでは仕事の不手際があったというわけではないのですか?」


「…………魔王軍の序列上位の者たちも、感謝していると同時に、リリアンヌが倒れないか心配で眠れないのだとぼやいていた」


「――――何とお優しい!」


 辺境伯令嬢、そして聖女候補でありながら、婚約者をえり好みする悪女として有名になってしまった私。こんな風に、誰かから心配してもらえるなんて、転生してから初めてではないかしら?


「は?」


 冷たい声音すら、どこか照れ隠しのように思えてしまいます……。そんなわけないでしょうけれど。


「ありがとうございます! それでは、ここで雇っていただけますか?!」


「…………働いていいのは、一日6時間までだ」


「えっ、そんなに短くていいのですか?!」


「は? 貴族令嬢だろう? ……昼飯は、魔王軍の食堂で取れ。それから、昼寝時間は必ず確保しろ。部屋を用意したからそこに移って夜は早く眠るように。あと、風呂がついているから毎日浴びるように。朝食と夕食は…………俺のところに来い。どうせ食べきれないから、分けてやってもいい」


 ――――え? なにそれ、すばらしい好待遇ではなくて?


「あの、身命を賭して働きます!」


「命を懸けるな!」


「――――魔王様……。お優しい。誠心誠意、この命尽きるまでお仕えいたします」


「どういうことなんだ…………。ほら」


 魔王様が、なぜか握ったままだった私の手を軽く引いた。


「夕食の時間だ。それと、俺のことはザハールと呼ぶように」


「ザハール様!」


 まさか、こんなところで、憧れの6時間時短勤務、三食昼寝付き好待遇生活が送れることになるなんて!

 私は、スキップする勢いで、魔王様改めザハール様に手を引かれていった。

最後まで、お付き合いいただきありがとうございます。下の☆を押しての評価やブクマいただけるとうれしいです(*'▽'*)

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