訓練場での一騎打ち 1
羊ちゃんは、なぜか走る私についてくる。
でも、体力がないのか、だんだん私との距離が離れると、「メイメイ……」と悲しげに鳴き声を上げる。
「く……急いでいるのだけれど」
「メイ…………」
ウルウルとした、黒目がちな瞳を潤ませるように私のことを見上げてくる羊ちゃん。
こんなにかわいらしく鳴き声を上げる羊ちゃんを置いていくこともできない。
私は、羊ちゃんを抱き上げる。
「重い……?!」
「メイ♪」
両手に乗るほどのサイズなのに、しっかり抱えなければ落としてしまいそうなほど、羊ちゃんはずっしりとしている。
「ザハール様のところに、早く行かないと!」
「メイ!」
どこまでも、走り続ける。
不思議なことに、羊ちゃんを持ち上げてから、その重さのせいで走りにくいと思ったのに、軽々と走ることができている気がする。
その代わりに、不思議なほど魔力がどんどん減っていく気がする。
一体どういうわけなのかしら?
でも、今は残念ながら、そのことを検証する時間はない。
もし、ザハール様にもしものことがあったら……。
……私のせいだ。こんなにも、光魔法の影響があるなんて思わなかったから。
でも、よく考えてみれば、人間の王国が全くかなわない魔王軍に、たった一人聖女が生まれたからといって立ち向かうことができるなんておかしい。
もしかすると、光魔法を使うことで、魔王軍の魔法を封じることができるのだろうか。
光魔法はとても希少だ。
今の世代では、聖女にはならなかったヒロインと、私くらいしか持っていない。
つまり、聖女という存在そのものよりも、魔王軍を弱対する光魔法の方に意味があるのかもしれない。
……そうなのだとしたら、私はいったいどうしたらいいのかしら。
もしかすると、ガルベス国にとって私は、いてはいけない存在なのではないかしら。
走りながら考える。私は、ザハール様の足かせになりたくない。
「――――はぁっ」
たどり着いた訓練場の観戦席には、いつの間にかあふれんばかりの人が集まっている。
額からしたたる汗を拭うこともなく、人垣の間をくぐり抜けるように、前へ前へと進む。
訓練場の中から、次々とけが人が運び出されていく。ザハール様の姿は、そこにはない。
そのとき、観戦している人たちから、ひときわ大きな歓声が上がった。
ようやく隙間からのぞくことができた訓練場の中心には、ザハール様とレオン様の姿しかない。
二人は、近づくものを拒むような雰囲気のまま、剣を向け合っていた。
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