魔王軍の訓練に……参加? 3
そんなこんなで、レオン様に横抱きにしたまま訓練場に登場してしまった。
当然、あり得ないほどの注目を浴びてしまい、羞恥で死にそうになる。
「あの、下ろしてください、と言いましたよね?」
「まだ、心臓の鼓動が落ち着いていません。危険です」
レオン様は、とても耳と鼻がいいらしい。
でも、この心臓の高鳴りは、運動したからではないのですよ。
レオン様みたいなかっこいい犬耳騎士様に抱き上げられているのですよ?
それが、好きとか恋とか関係ないにしたって、ドキドキしてしまうのは仕方がないと思いませんか?
そのとき、ビュオォォォ……という音ともに、凍ってしまいそうな冷たい風が吹いてきた。
風が吹き込んできた方向に目を向けると、そこにはザハール様が立っていた。
……あれ? なんだかものすごく、不機嫌そうです。
その姿を見たレオン様は、ため息を一つついて私のことをそっと下ろしてくれた。
――――そうよね。神聖な訓練場に、こんなふざけた登場の仕方をしたら、機嫌が悪くなるのも当然だわ。どうしましょう。でも、不可抗力です!
それなのに、私の近くまで歩んできたザハール様は、私のことを横に抱え上げた。
「…………?!」
状況を飲み込めないままの私を、赤くて燃えるようなのに、冷たさを宿した瞳でザハール様が見つめる。
「あ、あの…………?」
「俺の花嫁は、ずいぶんと移り気なのだな?」
そ、そういえば。なぜかキスされてしまってから、顔を合わすのは初めてだわ?!
しかも、キスされたことに驚いてしまって、思いっきり突き飛ばしたあげくに、走り去ってしまったのだわ!
うわぁ……。あまりに不敬。あまりに失礼。
「あ、あの……」
「――――あんな態度だから、ウブなのだと思っていたのだが、いやはや」
抱き上げられたまま、訓練場の真ん中に歩み出た魔王様。
なぜか私たちの周りを、いろんな姿形の人たちが取り囲む。
「さて、少しお仕置きが必要か」
「あ、あの……。いったい何が」
「――――魔王とは一体何だと思う?」
「えっ、あの。この国の王様です」
「半分だけ正解だ」
見ている間に、隕石みたいに魔法が私たちに向けて降り注いでくる。
あっ、ゲームオーバー。
けれど、構えた私に、衝撃も、熱さも、痛さも何一つ訪れることはない。
なんなら、物音一つすらしない。
固く閉じていた瞳を見開いて、ザハール様の顔を見つめる。そして、空があるはずの場所を眺める。
「え……?」
私たちの周囲は、半球で魔法の膜で囲まれている。
そこに光り輝く流星群みたいな魔法が降り注いでいた。
でも、音もしない。ただ、その光景があまりに非現実的で、美しいだけ。
「世襲ではないんだ。魔王は」
赤い瞳を細めて笑うザハール様は、本当に魔王様そのものに見える。
でも、私はそのことに嫌悪するどころか、心が引き寄せられるように目が離せない。
胸が高鳴って仕方ないのは、この異常な状況のせいなのだろうか。
それとも…………?
「――――この国で一番強い者が、魔王を名乗ることができる」
その言葉の意味を、本当に知るまで、もう少しの時間がかかる。
今はただ、ザハール様の魔法がなかったら、一瞬で私なんて焼き尽くしてしまうに違いない、降り注ぐ魔法の雨を、抱き上げられたまま呆然と眺めるしかなかった。
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