閉められた扉
……仕方がないわ。
魔王様の元に行って、ここまで私に配慮する必要がないことを説明しなくては。
だって、下女として働き始めたはずの私に、こんな風に護衛を付けるなんて周囲に示しがつかないと思うの。
「――――リリアンヌ様が、また勘違いしている気がします」
猫耳メイドミーシャのつぶやきが、聞こえてくる。
でも、そういえば初めからミーシャと一緒に働くように言われていたわね。
ミーシャにとっては、本当のお仕事は魔王軍の序列一位。余計な手間を取らしてしまったのではないかしら。
……というよりも、ミーシャ様とお呼びしたほうがいいのかしら?
「序列一位様なのに、どうしてこんなに親切にお仕事を教えてくださったんですか」
「――――リリアンヌ様? 私の本業は、メイドですので」
キョトンと目を見開いて、茫然とミーシャを見つめてしまったのは仕方がないと思う。
だって、序列一位よ? 人間が束になっても敵わないエリートぞろいの魔王軍で、一番強いのよ?
「……リリアンヌ様なら、分かって下さる気がします。持って生まれてしまった才能と、やりたいことは時に違うってことを。周囲が願うことと自分の目指すことは違うことを」
「…………あ」
え、すごく良くわかるわ。
私だって、全属性魔法をせっかく持って生まれたのだもの。それを生かして働きたかった。
でも、聖女候補としての力や、魔王軍と戦うための力だからと、自由にさせてはもらえなかった。
「わかるわ……。一緒に、メイドの星を目指しましょう」
「リリアンヌ様の場合は、状況的に難しいと思いますが」
「えっ、分かり合えたと思ったのに」
「他者は基本的に分かり合えません。その心の内は見えないのですから」
シュンッとしてしまった私に、気を使ったのかレオン様が「一緒に飯を食べれば、友達ですよ?」と、超理論を展開してくる。でも、その考え方、私は好きですよ?
「…………じゃあ、私とレオン様はもう友達ですね?」
生肉が食べられないと言ったら、こんがりお肉を持ってきてくれたレオン様。
おそらく、火魔法で強火で焼いたのに違いない。黒焦げだったけれど、私たちは仲良く並んで食べた。
もちろん味はなかったけれど、マイ塩を最近持ち歩くことにしているので、おいしく頂いた。
「そうですね、友達です!」
にっこりと笑いかけて、手を差し伸べてくださったレオン様。
本当にいい人だ。
……どうしよう。聖女候補としての訓練とか、辺境伯領での次々と用事を言いつけられる生活のせいで、友達なんていなかったからとてもうれしい……。
その時、ようやく長い廊下を進んでたどり着いた、ザハール様の執務室の扉が開いた。
そこから出てきたザハール様は、なぜか少し不機嫌な様子で私の手首をつかむ。
手首が引かれて執務室に足を踏み入れた瞬間、なぜか扉は閉められて私たちは二人きりになった。
最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです(*'▽')