周囲の変化と花嫁の困惑
これはいったいどういうことなのかしら。
いつも、私を見かければ走り寄ってくる犬耳騎士のレオン様まで、恭しく私にひざまずいた。
「あの…………。レオン様、これはいったい」
「――――序列十位ではありますが、陛下よりリリアンヌ様の護衛を拝命いたしました。……レオン・フィードルです。確かに広範囲魔法は持っていませんが、ミーシャ殿がそばにいる以上、近接での護衛は俺が適任かと思います。どうかお許しを」
「許すも何も……」
――――どうしよう。私が具合を悪くしたせいで、乙女ゲームのイベントが進行してしまっているわ。なぜか、悪役令嬢リリアンヌ相手に……。
乙女ゲームでは、魔力の受け渡しが、シナリオ進行の重要なポイントになっている。
攻略対象者の好感度が上がると、魔力が渡されて聖女の力が徐々に強くなっていくのだ。
でも、聖女じゃない私に、魔力を注いだからといって、何か意味ある?
うん、意味は特に見いだせない。そういえば、医務官のロード様は、私の魔力の許容量がとても多いと言っていたわ。そのことと何か……。
「リリアンヌ様……。お許しいただけないのでしょうか」
うっ?! 再び犬耳がペタンとなってしまったレオン様が、上目遣いに私のことを見つめている。
こんなの、ダメって言える人は多分心を持っていないのだと思う……。
「あの、ザハール様のご指示通りに……」
「は、お許しいただきありがたき幸せ」
それしか言いようがない。
おそらく、陛下のことだから、虚弱であることを理由に過剰なまでの護衛を付けてしまったに違いない。
この国の人たちは、私に対して過保護すぎるから……。
「えっと、とりあえずザハール様のところに参りましょう」
「は、仰せのままに」
こうしている姿を見ると、レオン様は確かに騎士なのだと実感する。
生肉を差し出してきた人と同一人物とは、思えないくらいだわ?
それにしても、廊下ですれ違うたびに驚いた顔をして私を見つめた後に、皆さまでひざまずくのなんでですか?
「ね……。なんで、こんなに急に扱いが変わってしまったの?」
猫耳メイド姿のままの、ミーシャがなぜそんな当たり前のことが分からないのか、とでもいうようにため息をついた。
「だって、これまでザハール様の魔力を受け取った者は、一人もいないのですよ? 序列一位の私ですら、その栄誉を受けたことはありません。つまり、リリアンヌ様はザハール様の特別なお方ということです」
「えっ、すごい発想の飛躍!」
弱すぎるせいで、気の毒に思って魔力を分けてくれただけのザハール様にとって、こんな誤解は迷惑に他ならないわ。
「そうでしょうか?」
「…………それはそうでしょう? 弱弱しい生き物が死にそうになっていたら、助けるわ」
そう、勘違いをしてはいけないわ。
このままでは、盛大に勘違いをしてしまいそう……。
だって、私は魔王の花嫁という名の、ただの供物なのだから……。
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