魔王の花嫁がだめなら仕事ください
楽しんで書いたので、一緒に楽しんでもらえたらうれしいです(*'▽')
「花嫁という名の供物など必要ない。下等な人間など愛するはずもない」
フラグになりそうな全ての縁談を断り続けてきた私。リリアンヌ・メイザー辺境伯令嬢。
公爵家嫡男、王太子、第二王子、騎士団長の息子、宰相の息子……。
だって、皆さん攻略対象者なのですもの。
悪役令嬢に転生したことが分かっているのに、婚約破棄のあと、断罪されると分かっていて、婚約するなんてありえませんよね?
「戻るがいい、人間の女」
見目麗しい魔王様。
真っ黒な髪の毛に赤い瞳。
でも、人間と何が違うのか私にはわからない。
「えっと……。戻る場所なんて」
「…………」
そんなことをしおらしく言ってみれば、魔王様がちょっと気の毒そうな顔をした。
意外といい人なのかもしれない……。
そもそも、全ての縁談を断り続ければ、神殿送りになれると思っていたのが甘かったのよね、きっと……。スローライフは遠い……。
私がたどり着いたエンディングは、魔王の花嫁という名前の供物。聖女のいない世界では、聖女なしでは魔王に勝つことなんてできない人間が生き残るために、高貴な女性が捧げられる。
そういえば、隠しルートに、そんな展開あったわね。すっかり忘れていたわ。
それにしても、まさか、魔王の花嫁に選ばれるなんて。
なぜかヒロインは聖女にならずに、身分相応の男爵家の幼馴染とめでたく結婚した。
つまり、これはもう、聖女のいない乙女ゲームシナリオから外れた、ある意味バッドエンド後の世界なのだろう。
本当は、魔王の供物として選ばれるのは、隠しルートでのヒロインの役目のはず。
魔王城に送り込まれてから、聖女として覚醒して、人間界と魔物の世界の懸け橋になるストーリーのはず?!
「帰る場所はないのです。下女でもなんでもいいから、置いていただけませんか?」
「辺境伯家の令嬢が下女の真似事? 役に立つはずもない」
「では、三日間だけ試験して下さい。できます、やります! 下女でもなんでも!」
申し訳ないけれど、私はただの辺境伯家令嬢ではない。
酸いも甘いもかみ分けた、元派遣社員。
中身は、ごく普通の一般人だ。
戻ったところで、帰る場所なんてもうない。
それなら、ここで強くたくましく、生き残って見せるわ!
……以外にも、魔王様のお許しは出た。
黒が基調の可愛らしいメイド服に袖を通す。
「よろしくお願いしま~す!」
「え? 人間の女?!」
困惑していますということを隠すこともない魔王様が「どうせ続くはずないか……。三日間だけだぞ? そうしたら帰るんだぞ?」と紹介してくださったのは、お城の掃除をする猫の獣人メイドさんだった。
メイドさんも困惑しているが、そこは華麗にスルーした。
仕事の初対面は、印象が命。
元派遣社員のスキルを今こそ発揮します!
それからの三日間、周囲が呆れるくらい、私は身を粉にして働いたのだった。
最後までご覧いただきありがとうございます。『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。緩く続きます。