4-1.成長すっぺ ~つるぎ編~
〇登場キャラクター紹介です。
・史貴 茜:17才の少女。魔術の学校【学院】の最高実力者。【賢者】の称号を持つ。
・チャコ:茜の〈使い魔〉。正体は小型のしばいぬ。ふだんはメイド服の人間のすがたをしている。
・史貴 葵:茜の姉。21才。【学院】の女学長。
「やあっ。おねえちゃん」
にこにこ。
茜は学院長室にやって来た。
金色の髪を肩までのばした、グリーンの目の少女である。
パーカーとみじかいスカートをつけた身体は小柄だが、大人用の赤法衣を引きずって歩くということはもうしない。
すこし背がのびたのだ。
広い洋間で本を読んでいた葵が顔をあげる。
【学舎】――さる古城をまねて造った魔術師の校舎――の最上階に位置するここは、日あたりがとてもよい。
窓からそそぐ正午の陽射し。
そのなかで、ながい金髪の女――若いが学院長だ――史貴 葵は、ブルーの瞳を妹に投げかけた。
「めずらしいわね。あなたのほうから私に会いにくるなんて」
「そーかなあ」
茜のうしろには使い魔の女性が立っていた。
茶色い長髪にブラウンの目。赤いメイド服を着た、十代末ごろの従者である。
今は『人』のすがたをしているが、本来は小型の犬である。
「ちょくちょく会いには来ていましたが、葵さまがすげなく追い返していたという印象ですわね」
「そうだったかしら」
「とにかく。聞いてよお姉ちゃん」
ぱんぱん。
茜は手をたたいてふたりの意識を引きもどした。
寒色系のワンピースドレスをととのえて、葵が椅子に座りなおす。
茜は「えっへん」と胸のまえに腕を組む。
「お姉ちゃん。今日は私になにかしてあげることがあるんじゃないの?」
「あなたに?」
「うんっ」
「デコピンくらいしか思いつかないわね」
「ぶっぶーッ。プレゼントだよお姉ちゃん。プレゼント!」
「なぜ?」
「きょうは五月の五日。『こどもの日』なんだよ。だからなんか買ってよ」
「じゃあ今から学長権限で『十五歳以上は大人』に法律を改定します」
「いきなりのルール改竄で自分の都合のよいように世のなかを動かそうとする大人げないおとなが権力持ってるってのがこの世界の抱える大問題だよね」
ひとしきりあきれてから、茜はとことこ葵のもとへ行った。
「とにかくさ。お姉ちゃん」
学院長の執務机によじのぼって、正座する。
「私。ほしいものがあるの。今日はこどもの日なんだから。それ買ってよ」
「あなたこういうときだけ私を姉あつかいするのはやめなさい」
「カタログもちゃあんと持ってきたんだあ~」
「私のはなし聞いてたかしら。買う気はありません。と言っているのよ?」
「うん。聞いてた聞いてた。でも採用はしないから」
茜のうしろからひょいとチャコが出て、無言で脇にはさんでいた雑誌を葵のデスクにひろげる。
「安いものならべつにいいけど――」
ほおづえついて、葵はピンクのふせんの貼られたページを見やった。たくさんのマシーンが載っている。
「……これは?」
「分析器」
「こどもの要求するものにしては高価だわ」
「でも新しいのがほしいんだもん。いま私が持ってるやつじゃ、【魔鉱石】の解析って限界があるし」
「……では。【賢者】さま。【学院】全体の備品として。購入を検討させていただきます」
「はーあああ!?」
ばああああんッ!
茜は机をぶったたいた。
両手をばんっ、ばんッ、何度もたたきつける。
「なんでッ。なああああんで私『個人』に買ってくれないの!? わたしお姉ちゃんのそういうとこだよキライなところ!」
「って言っても茜。これ値段みてみなさいよ。何百万円ってするのよ。ぽんと買ってあげられるほど私はお金持ちになったおぼえはないわ」
「もーお。ちゃんとみてよお姉ちゃん。桁ひとつまちがえて言ってるからね」
「……ほんと。そうね。私がまちがってたわ。何千万円ってするのね。買えるわけないでしょ」
「えーッ。やだやだやだやだあああああ!!」
つくえのうえでひっくりかえり、茜はじたばたした。じたばた。ばぶばぶ。
「買ってかってかってかってかって~~~!!」
両手を振りまわしてだだをこねる妹に、葵は頭痛をこらえる。
デスクの引き出しをあけて、朝刊にはいっていた広告を取りだす。
「茜。備品としてはほんとうに考えておくから。今回はそれで引き下がりなさい」
くるくる。
広告を。葵はデスクのあいてるスペースでほそく巻いていく。
最後にでんぷんのりでくっつけて、手で風を送ってかわかした。
「【学院】に。じゃなくて。私に買ってほしいんだよお……」
「あなたのそのわがままは、いい加減なんとかしてほしいものね」
できた『棒』を葵は茜に渡した。
「ほら。これあげるから。もうあっちに行きなさい」
「なにこれ?」
「『剣』よ」
「こんなちゃちいぼうっきれで……。分析器の代わりなんかつとまんないよ……」
半泣きになったものの、姉に「ん!」と突き出されて茜は受けとった。
とぼとぼ……。
デスクからおりて。チャコをつれて。学院長室を出ていく。
〈つづく〉




