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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編15 節分
36/36

15.豆まき


 ○キャラクター紹介です。


 ・『史貴しき あかね』:16才の魔女。魔術(の学校・【学院】の研究者。魔術師最強の称号(しょうごう)でもある、【賢者(けんじゃ)】のくらいを持つ。

 ・『メイ・ウォーリック』:17才の魔女。【学院】の生徒。貴族の出身。

 ・『史貴 あおい』:20才の魔女。茜のじつの姉。【学院】の学院長。



 ――あおひとみが、森の一点(いってん)を見つめている――。


 だだだだだ!!!


「鬼はーそとー」

 ぱらぱらぱら……。


ふくはうち」

 ひょい、ぱく。


「鬼はーそとー」

 だだだだだだ!!!


「福はうち」

 ひょいぱく。


 ……。

 少女は森のなかにいた。

 史貴(しき) (あかね)。十六才の女魔術師である。


 としの終わりごろににショートにした金髪(きんぱつ)は、もうすぐ肩に届くかという長さ。

 大きなみどり双眸(そうぼう)は、ひとなつっこそうだが、反面(はんめん)感情を(つぶさ)に映す。

 喜びはもちろん――怒りも、また。


 山の中腹(ちゅうふく)にある、魔術(まじゅつ)の学校――ここ【学院(がくいん)】において、彼女は最強と認められた腕利(うでき)きだった。


 一月(いちがつ)に受けた『再試験』もパスして、【賢者(けんじゃ)】に返り咲いた()には、私服のうえに、その証明たる赤法衣(あかほうえ)をまとっている。


 そして今は、【学院】敷地(ない)にある【森林庭園(しんりんていえん)】に、彼女はいた。

 一本(いっぽん)の樹に、木製の装置を向けて、せっせと(つぶ)(じょう)(たま)を乱射しては、地面にばらばらと落ちたそれを、ひょいと拾って、ぱくっと食べている。


「……あの、」


 (とお)りすがりの魔女(まじょ)が、あかねに声をかける。メイ・ウォーリックだ。

 長い黒髪くろかみに黒目の、貴族(きぞく)の第三息女(そくじょ)。ブラウスにニットセーター、プリーツのミニスカートにロングブーツは、いかにも女子学生といういでたち――『いかにも』もなにも、実際に彼女は【学院】の生徒である――高等部()年生で、(あかね)が知る限りなかなか腕のたつ魔術師である。


 彼女――メイは言った。

 ぶっきらぼうに、〈マスケット(じゅう)〉を片手にさげたまま。


「ジャマですわ。賢者(けんじゃ)さま」

「そのび方やめてくれるまでどかない」

「では、本日ほんじつはご歓談に(きょう)じるとしましょう」


 嘆息たんそくして、メイは自分の(じゅう)を消した。

 マテリアリゼーションを解除した武器が、【魔力(まりょく)】の粒子(りゅうし)となって、夕焼ゆうやけに溶けていく。


 あかねの構えている『装置』を、メイはゆびさした。


「それは?」

(まめ)ガトリングだよ。割り(ばし)で作ったんだ」

「そうですか。ですがわたくしが聞きたいのは名前ではなく、なぜまめを乱射していたのかということです」

「なんだ、メイ知らないの?」

「また姉君(あねぎみ)さまと何かあったのですか?」


 五寸釘(ごすんくぎ)で打ちこまれた写真をメイは見た。

 写っているのは茜の(じつ)(あね)にして、学院長(がくいんちょう)である史貴(しき) (あおい)の顔だ。

 長い金髪(きんぱつ)に、うみのような青い(ひとみ)の美女。


 まだ二十歳(はたち)と若いことも手伝って、年ごろの男ならみんなハッとしそうなものだが、【学院】において彼女の人気は高くない。男女)問わず。


 あおいの顔を収めた写真には、(まめ)――()った大豆(だいず)がいくつか刺さっていた。

 あかねのいう(まめ)ガトリングが射出(しゃしゅつ)したものだろう。遠目(とおめ)からちょっとだけ見てた。


「ちがうよメイ。今日は『節分(せつぶん)』なんだよ」

「せつぶん? 日本(にほん)の行事ですか?」

「そう。二月(にがつ)三日(みっか)にやるんだって。十四(じゅうよっ)日も何かあるみたいなことお(ねえ)ちゃん言ってたから、節分って、今日と()回あるんじゃないかな」


(あら? 二月(にがつ)の十四日は確か『(セント)バレンタインデー』だったような)


「それでね、節分は豆で(おに)をおっぱらって、災難(さいなん)を遠ざけるんだって。で、豆を食べて、福を内に(まね)こうって寸法(すんぽう)。年の(かず)だけ食べるんだよ。メイにもあげるね」


 しゃがんで茜は(こお)るような冷たい地面から、ひょいひょい(まめ)を拾った。

 メイは数えで十八(じゅうはち)才。

 だから――十八個じゅうはっこ!


「はい、メイ。あげる」

()ちているものを食べるのはちょっと」

「身体にいいのに?」

「何が(とお)ったかもわからない地面に接触(せっしょく)したものなんて、どんな健康食(けんこうしょく)でも気味きみが悪いですわ」

「んじゃあせめてメイの(やく)はらってあげるよ」


 ぱくぱく。片手に()めた豆(十八じゅうはち個)を食べながら、(あかね)


「それはどうも――」


 だだだだだ!


 あかねはメイに向かって(まめ)ガトリングを撃った。

 ()護謨ごむと割り(ばし)で作ったカラクリが、メイの顔面(がんめん)に豆をくらわせる。


賢者(けんじゃ)さま」

(なに)?」


 だだだだだだ!!!!!!


鉄砲(てっぽう)は、敵以外に向けるものではありませんわ」

「じゃあメイいまから敵ね」

「いま少しだけゾッとしましたわ」


 飛んでくる(まめ)を手でいなして、メイはとりあえずそのからどいた。

 追撃ついげきはない。弾丸(たま)切れだろう。


 【賢者けんじゃ】は手製のシリンダ(割り(ばし)(せい))に、新しい豆を(ます)からザラーと入れている。

 どういう仕組みになっているのかは知らない。


「ねー、メイは今からここで何かするの?」

射撃(しゃげき)の訓練でもと思っていたのですが、もういいです。なんだかどっと疲れましたわ」

「んじゃあうち来る? 今日は恵方巻(えほうまき)っていうのを食べるんだよ。あとイワシのつみれ(じる)。チャコが作って待ってるんだ~」

御相伴(おしょうばん)にあずかるのは(やぶさ)かではありませんが……」

「じゃあ行こ」

賢者(けんじゃ)さま、」

「私もーおなかぺこぺこだよー」

「わたくしは遠慮(えんりょ)させていただきますわ」

「なんで?」


 ちょいちょい。

 無言(むごん)でメイは森の一画(いっかく)(ゆび)さした。

 (あかね)が振りむき、目をらす。


 ――木のひとつから、ドレスを着た金髪(きんぱつ)碧眼(へきがん)の女がのぞいていた――。


 能面(のうめん)みたいな表情に、取ってつけたみたいにくちもとだけを笑みの形にして。


「では賢者さま、わたくしはこれで」

「待って!!」


 ささーっとメイは転移の魔術(まじゅつ)を展開した。あかねのそばから避難(ひなん)する。


 しくもタッチの差で茜の手は(ちゅう)をつかんだ。メイのテレポートにくっついて、いっしょに逃げようとしたのに。


 (あね)――(あおい)が、木のかげから出てくる。


あかね、」


 一歩(いっぽ)一歩、彼女は近づいてくる。


「なぜ私の写真を(まと)にしてまめを撃ちまくっていたのか、説明してごらんなさい」

「うっ…………」


 迫りくる姉に、茜はまめガトリングを構えた。

 (ばし)銃口(じゅうこう)で、キッカリ相手の顔をねらって。


「うおおおおおおおおには外おおおおおおおお!!!!」


 ぴしぴしぴしぴしい!!!!


 数多(あまた)大豆(だいず)が、貧相な音をたてて葵の白い(おもて)をたたく。

 (あおい)(あゆ)みは止まらず、


ひとに向かって撃つのはやめなさい。あと、」


 ぷすん。


 豆が()きた。

 あおい平手打ひらてうちが、(あかね)のほっぺた目掛けて飛ぶ。


ちてるものは食べるなって、いつも言ってるでしょう!!」


 ――っぱああああああああん!!


 (かわ)いた音が鳴る。

 賢者のわめきが、夕暮ゆうぐれの【学院(がくいん)】にこだました。


「おねえちゃんの、おにいいいー!!!」



                      (【短編15:節分せつぶん】おわり)





 ・以上で、『鉄と真鍮(しんちゅう)でできた指環(ゆびわ)季節(きせつ)編】』は終わりです。


 読んでいただいて、ありがとうございました。



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