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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編13 大晦日(おおみそか)
33/36

13-4.除夜の鐘 ~阻止編~




 〇このものがたりは、『13-3.除夜じょやかね ~共闘きょうとう編~』のつづきです。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 〇登場とうじょうキャラクターです。

 ・史貴しき あおい:20才の魔女まじょ魔術まじゅつ学院の学院長がくいんちょう

 ・シロ:あおい使つか。外見の年齢ねんれい17才くらい。

 ・史貴 あかね魔術まじゅつ学院の魔術研究者まじゅつけんきゅうしゃ。もとは【賢者けんじゃ】だが、ある事件によってその力量りきりょうを問われ、〈再試験〉をうける予定よてい。16才。あおいのいもうと。

 ・リョーコ・エー・ブロッケン:19才の女魔術師。学院の研究所けんきゅうじょにつとめている。





   〇


 かああああん。


 学舎がくしゃ尖塔せんとうおとる。

 金色のベルは極寒のゆきのなか、ひときわつめたい金属の音を響かせていた。

 鍾台(しょうだい)にはふたりのおんながいる。かねのハンマーについたひもをにぎるのは、若い金髪きんぱつ女性じょせい学院長がくいんちょう(あおい)である。

 鐘の台座には使つか少女しょうじょすわりこんでいた。ダッフルコートのフードをかぶり、あかくなった手に息をはきかけている。

「さあ~む~い~」

 少女のウサギのみみが、頭巾ずきんにおされてボブショートの白髪はくはつのうえにぺたんとれている。

「まだわらないんですか。ご主人しゅじん~」


「こらえてちょうだいシロ。侵入者しんにゅうしゃがこないか見張みはってて。最後の一回(いっかい)はつかせてあげるから」

「そんなのつきたくないですよ……」

 がちがち声をふるわせて、シロは反発はんぱつした。主人がまたひとつ、かねをつく。吹雪く宵闇(よいやみ)上方じょうほうから、ちら、と不自然な色がまたたいた。

「だれかきますね、ご主人」

 シロは立ちあがった。その場で足ぶみして、さむさをまぎらわす。

 あおいは、釣鐘つりがねのロープから手をはなした。夜のくらやみのなかから、金無垢きんむくの光が飛来する。ついでに、緋色も。

「おねえちゃーん!」

 いもうとの声が、そのすがたとともに、ふりそそいだ。上空じょうくうから、大きめの白いコートのすそをはためかせておちてくる、ニットぼうをかぶった、金髪きんぱつの少女。

 彼女のくりだした右足みぎあしが、葵のよこつらを、殴打した。

 どげっ! にぶい音をたてて、あおいゆきのつもったゆかのうえをころがる。てすりに景気よく頭からつっこんで、止まった。


 重力じゅうりょくにのっとった飛び蹴りをくらわせた本人ほんにんは、けった反動はんどう利用りようして、くるりととんぼがえりを打ち、自由じゆう落下のいきおいを()いで、着地ちゃくちする。

「なんとかにあったっ。いま、いくつついたの!? 私がきたからには、もう中断ちゅうだんだからね!」

 肩をいからせて、わめく少女――あかねのつきだしたゆびのさきで、あねの葵が、ぴくぴくとけいれんする。

 そのさまを見て、使つかのシロが、「あわわ」とくちをおさえた。

「あ、あおいさま……なんか、首が……、まがっちゃいけない方向ほうこうに、まがっているような……」

 すとん。と、シロのそばに、もうひとりの女性がりたつ。ここまで茜をかかえて飛んできた魔術師まじゅつしだ。リョーコである。

「つーか、れてる?」

「……やってくれたわね、あなたたち」

 ごきん。

 両手で首をもとにもどして、葵は柳眉(りゅうび)をふるわせた。立ちあがり、鐘楼(しょうろう)に突貫してきたふたりの闖入(ちんにゅう)者をにらみつける。


「いったいどういうつもりかしら。一年(いちねん)の終わりを、こんなかたちでだいなしにするなんて」

「だって、除夜じょやかねをきいたら、煩悩(ぼんのう)なくなっちゃうんでしょ?」

 あかねは必死になって、あねにたしかめた。

「そーよ」とあおいは、そっけないへんじ。茜はじだんだをふんだ。

「なんでそんなことすんのさ! せっかくここまでそだててきたのに!」

水耕(すいこう)栽培さいばいみたいにいわないでちょうだい。あと、あなたたちはとーくーに、きょうの鐘を、すべてきいて、頭のなかをいったんきれいにして、新年しんねんをむかえるように。だれのためにやってあげてると思ってるの」

 茜とリョーコをじゅんぐりに指さして、葵は命じた。キャスケットぼうをはたいて、雪をおしていたリョーコが、赤いかみのうえにのせなおして、腕をくむ。

「その()()()()()()、やめてくれる? 大きなおせわよ。だーれが、あんたに、いつ、『私のあたまんなかを、なんとかしてください』つった? ほんとは自分(てめえ)のためでしょ」


 ――むっ。と、葵はほおをふくらました。リョーコの横で、「そーだ、そーだあ!」とこぶしをふりあげるあかねが、また腹立はらだたしい。

「だまらっしゃい。考えることといったら、破壊はかいか、実験か、自己中じこちゅう欲求よっきゅうか……。とにかく、ひとさまにめいわくをかけることしか取りのないあなたたちを、学院長がくいんちょうの権限をつかってなんとかしようというのの、なにがいけないの」

「だーから、それが大きなおせわだ、っつってんの!」

 いきまくあおいに、リョーコもまけじと、いいかえした。完全な傍観者ぼうかんしゃになりはてたシロは、じぶんのところに飛び火しないよう、こっそりと、三人から距離きょりをとる。

 茜はせわしなく、かねのほうを見あげた。

「てか、ほんとに中断ちゅうだんできたのかな? おねえちゃん、いくつついたの?」

「一〇一回よ。あとなな回で終わり」

 痛みののこる首をさすりながら、葵はこたえた。さいごの一回は、シロにつかせるつもりだったが、このぶんではむりだろう。

 リョーコが安心あんしんしたように、息をはいた。


「よおし。じゃあ、ぜんいん解散しましょ。こんなとこにいたんじゃ、かぜひいちゃうわよ。あおい、あんたももうおとなしく、ひっこみなさい」

 勝手に音頭おんどをとるリョーコに、葵はうろんな目つきになった。ふたりにきく。

「なぜあなたたちは、そんなききわけのないことばかり言うの。一年いちねんをすっきり清算して、来年こそは、きよく、ただしく、うつくしく生きようと、気分をあらたにしようとはおもわないの? あなたたちの、めちゃのあとしまつを、だれがやると思ってるの」

「おねえちゃん」

「そこはうそでも、じぶんでやってるって言ってほしかったわね……」

 きっぱりこたえるあかねに、葵は心底、落胆(らくたん)した。リョーコが「はっ」と肩をすくませ、はなでわらう。

「なあーにが、清く、ただしく、うつくしく、よ。くちをひらけば、おとこのはなししかしないあなたがいうこったないでしょ。かがみみてから、ものいえばあ?」

 いらっ。と、これは、葵もかちんときたようだった。つめたい美貌びぼうに、犬歯をむきだしにして、あくまで冷静に――なりきれてないが――言いかえす。


毎回まいかいみてるわよ、鏡くらい。いいでしょ、恋愛れんあいくらい。むしろ研究けんきゅうおたくのあなたたちが、異常いじょうなのよ。ええ、まえからいおうと思ってたけど、はっきりいって、へんたい的だわ。常軌じょうき(いっ)してるわ。毎日のように、じぶんの家から、へんなにおいのけむりをたちのぼらせるなんて!」

「まだ気いつかってやってるほうなのよ、感謝かんしゃしなさいよ!」

「あなたのとなり近所きんじょの先生たちから、クレームたたきつけられる私のにもなってちょうだい!」

「その点、私は最近なーんもやってないから、免除めんじょってことでいいんじゃないの?」

 あかねがきょとんとあねに言って――、

「あなたは気にいらないことがあると、すぐに生徒も先生もかんけいなく、爆破ばくはするでしょうが・あ・あ・あ」

 妹の顔を両手でわしづかみにてし、頭蓋骨ずがいこつをぎりぎり鳴らして、あおい

「へんなけむりや爆発ばくはつだってなら、ご主人しゅじんけずおとらずな気がするけど」と思いつつも、シロはくちをはさまなかった。

 くちげんかから、いつのまにやらほのお魔術まじゅつがひらめいて、鐘撞(かねつき)の塔は、ほんのりあったかく、あかるくなる。


 ――白い閃光がはじけ、爆風がうずまいた。三人のうちの、だれが、どれをはなったかは不明ふめいなものの、屋上おくじょうには、魔力(まりょく)の光がまたたき、轟音ごうおんが吹きあれ、黒煙があがる。

「だいたい、自己ちゅーってなら、おねえちゃんだって私のこといえないじゃん! 勝手にひとのぼんのー消そうなんて! よくものぞみもなくなったら、いま以上いじょうに、生きてるのがつまんなくなっちゃうよ!」

「どうしてそうなるのかが、わからない。私はもうすこしあなたたちに、()()()()になってほしいだけよ! 私が苦労しないていどに!」

「よくいうわよ。あんただって、たいしてかわんないでしょー! てかあかねちゃんはともかく、わたしは他人にめいわくかけたことなんて、いっぺんもないわよ! 正当な権利を行使してるだけで!」

「あ、ずるい! じゃあ私だってないよ! 私をおこらせるむこうがわるいんだもん!!」

「その考えかたが、まっくろだって、いってるのよー!」

 どかーん! ぼおおん! ごおおおおおおおおおお!!!

 ほのおが。光が。爆風ばくふうが、炸裂する。


 吹雪のたえない屋上おくじょうで、シロはぼうぜん……と、魔女まじょたちの戦いをながめていた。三人の怒号がとびかう。

 そんなこんなしているうちに、としれ――。



 年がけた。





                 (【短編13:大晦日おおみそか】おわり)






 〇今回の投稿で、今年(2022ねん)の『鉄と真鍮しんちゅうでできた指環ゆびわ【季節編】』の投稿はおわりです。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 んでいただいて、ありがとうございました。


 よいおとしを。



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