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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編13 大晦日(おおみそか)
32/36

13-3.除夜の鐘 ~共闘編~





    ・このものがたりは、『13-2.除夜じょやかね ~探索編~』の、つづきです。



    〇登場とうじょうキャラクターです。

    ・『リョーコ・エー・ブロッケン』:赤いセミロングに、赤いの、19才の女魔術師おんなまじゅつし。【学院】の、研究所けんきゅうじょにつとめている。

    ・『史貴しき あかね』:魔術まじゅつ学院の、魔術研究者まじゅつけんきゅうしゃ。もとは【賢者けんじゃ】だが、ある事件によって、その力量りきりょうを問われ、〈再試験〉をうける予定よてい。16才。あおいのいもうと。

    ・『ノワール』:リョーコの使つか。外見の年齢ねんれい、20代前半くらい。






    〇


 【学院】の魔術まじゅつ研究者けんきゅうしゃたちがまうアパート・メントは、男子棟と女子棟が、連絡通路でつながっている。

 ごおごおと、吹雪(ふぶ)まどのそと。女子棟の上階じょうかいに住むその魔女まじょは、しかし、屋外おくがいのさむさとは、無縁むえんだった。

 自作の暖房だんぼう器具を設置した室内しつないは、快適なぬくもりにたもたれている。いまはタワー型の装置だが、インテリアにはふさわしくないので、天上てんじょうか、ゆかにうめこむタイプに改良かいりょうする予定よていだ。

 (いち)年の大半を、研究用の広間に置いていたベッドは、新年くらいは初期しょき位置ですごそうと、寝室にもどした。とはいえ、そこでは使つかの女がねてしまっている。ここ数年、ひとりでねていたのが、習慣しゅうかん化してしまっているために、(あいてがねこのすがたでいっしょにねるのは、気にならないのだが)魔女は結局、寝室ではなく、研究けんきゅう室でねむっていた。休憩(きゅうけい)ようのソファで、クッションをまくらにして、毛布にくるまって。しかし寝息ねいきは、ここちよさそうである。


 がちゃ。

「――……」

 がちゃ、がちゃ、がちゃがちゃ!

「――は……?」

 がち! ばきん!!

「はあっ!?」

 覚醒したのうは、目をあけた瞬間しゅんかん、まず暗闇(くらやみ)を認識した。直後ちょくご魔法まほう施錠(せじょう)をやぶる閃光。

 年末年始ねんまつねんしのやすみくらいは、学院長がくいんちょう訪問ほうもん排除はいじょしようと、てかげんなしに、玄関(げんかん)扉に強力(きょうりょく)な結界をかけておいた。学院長はもちろん、それよりすこし腕のたつ魔術師まじゅつしていどでは、とても破壊はかいできるようなものではない。

「リョーコちゃん!」

 ――かくして、扉をあけた術者じゅつしゃの正体は、彼女が予想するよりさきに、全貌ぜんぼうをあらわした。

「リョーコちゃん、たいへんだよ!」


 金髪きんぱつに、(みどり)。学院長の、じつのいもうとにして、【学院】における最高位の実力(じつりょく)ほこる魔術師、【賢者(けんじゃ)】の(あかね)である。

(あれ? 再試験パスするまでは、まだ【賢者】じゃないんだっけ?)

 と、どうでもいいことをかんがえつつ、彼女――リョーコ・(エー)・ブロッケンは、毛布のなかで、まどろみをつづけた。あけていた赤い目を、うとうと、とじる。

「もーお、おきてよ、リョーコちゃん! おねえちゃんが、かねをつくっていってるんだよ!」

 毛布をばさあ! と茜は()いだ。リョーコはひとつ、みぶるいする。部屋は暖房だんぼうがきいているが、ねおきのからだは、急激きゅうげき温度おんどの変化にこたえる。

「あいっ、かわらず、わっけのわかんないことで、ひとさまの安眠あんみん妨害ぼうがいするわねー」

 リョーコはのっそり、おきあがった。セミロングの赤毛あかげをかく。かみのあがった耳もとで、銀のピアスが、にぶく光った。

 タンクトップに、ホット・パンツというねまきすがたで、リョーコはソファに腰かける。指さきを――電気のスイッチのある、だいたいの位置にむけて、念動力(ねんどうりき)魔術まじゅつ発動はつどう。スイッチをいれる。ぱっ。と、あかりがつく。


「ほんで? こんな夜中よなかに、どーしたのよ。火事でもあった?」

「ちがうよ。除夜じょやかねって、しってる?」

「えー?」

 おおむかしに――学院長がくいんちょう(あおい)と、ルーム・メイトだったころに――なんどか聞いたことがあるような、ないような。

 リョーコが考えあぐねていると、奥のから、「はいはーい」と手をあげて、なが黒髪くろかみ美女びじょがあらわれた。リョーコの使つかの、ノワールだ。

「知ってるわよ。にんげんの煩瑣(はんさ)欲望よくぼうとか、誘惑ゆうわくとか、不純ふじゅんなきもちを消してくれるんでしょ?」

 茜はこくんとうなずいた。ノワール――ネグリジェの妙齢みょうれいの女性から、リョーコのほうへと顔をもどす。

「ねえ、おねえちゃんがどこいったか知らない? てか、除夜じょやかねって、どこにあるか知ってる?」

「除夜の鐘って……たしか、そういう名前なまえの鐘じゃなくて、『年末ねんまつく鐘』のことを、そうよんでるだけじゃなかったっけ」


 おぼろな記憶をたよりに、リョーコは指摘した。ノワールが、ちかくの服かけから、主人しゅじんの白いピー・コートを取って、あかねに着せる。

「てゆーか、茜ちゃん。あなたそんなかっこうで来たの? さむくない?」

「さむかったけどー。でも、和泉(いずみ)んとこにも聞きにいったとき、ちょっとあったまってきたし。いまはへーき」

「はあ? あいつ、コートのひとつもかしてくれなかったの? 気がきかないわねー」

 中途ちゅうとはんぱにとけて、()()()みたいになったゆきを、金色のかみから取ってやりながら、リョーコは毒づいた。ひとつのびをしてから、

「まあ、いっか。それより、あかねちゃん。あおいならたぶん、学校の鐘楼(しょうろう)よ。このへんで鐘っつったら、それ以外ないし」

「えー……。けっこう、距離(きょり)あるなあ」

「そういや、みあがりだったわね。リョーコの封印(じゅつ)は、といちゃったけど」

 茜のあたまに白いニットぼうをかぶせてやって、ノワールはついでに、ぽんとなでた。茜はおとなしくうなずく。

「いまは学校、完全なやすみだから、校舎内こうしゃないの【転移ポイント】も封鎖されてるし……。走っていくにしても、まにあうかな。だって、一〇八(ひゃくやっ)つの鐘がおわったら、煩悩ぼんのうぜんぶ、なくなっちゃうんだもん」


 まくしたてる茜に、リョーコはじぶんのあごに、手をあてて、

「ふうん……そりゃ、おだやかじゃないわね」

「でしょ?」

「だって、はやりの服を買おーかどーかとか、きょうはどのアクセサリーで決めていこうかとか、昼飯ひるめしはパスタかパンかとか、そーゆーこと、かんがえられなくなるってことでしょ?」

「うん。まあ、そんなかんじかな」

 天をあおいでなげくリョーコに、あかねはうなずいてみせた。ノワールはじぶんの主人しゅじんに、金色のをすがめる。

「あんたのなやみって、そのていどなの?」

「いいでしょ、べつに。それもたのしくて生きてんだから」

 リョーコはじぶんのむねに手をあてて、たからかに微笑びしょうした。茜が彼女のタンクトップをひっぱる。

「うん。そう。煩悩ぼんのうなくなったら、生きるたのしみって、なくなっちゃうよ。それが言いたかったの。だから、ねえリョーコちゃん、おねえちゃんとこまで、つれてって」

 ぐいぐいひっぱる少女に、リョーコは嘆息した。

「はいはい。いーわよ、どーせ今からねたって、ろくにねつけないだろうし」


 ぬぎすててあったシャツやスカート、ジャケットを取って、みじたくをととのえていく。ロング・ブーツにあしをねじこんで、防寒用ぼうかんよう黒法衣(くろほうえ)をはおり、キャスケットぼうをかぶった。したくをえて、リョーコは洋間ようままどを、開けはなつ。

 びゅおおおおおおお!! ゆきと風が、夜闇(やあん)から吹きこんでくる。

「さむっ!!」

 をきるような寒風(かんぷう)に、リョーコは全身をすくませた。

「行くならさっさとでてってよ。私がひえちゃうでしょ」

 あかねをうしろからだっこして、窓辺まどべ硬直こうちょくしている主人しゅじん背中せなかを、ノワールがけっとばす。

「てめー!!!」

 ひゅーと窓からいちど落下して、リョーコは、魔法まほう発動はつどうさせた。飛翔ひしょう魔術まじゅつが、ふたりの魔女まじょを、空へと浮上ふじょうさせる。〈高速飛行〉は、吹雪ふぶきが皮膚をきりつけるおそれがあるので、断念だんねんした。

 白い(つぶて)のとばりのむこうに、月下にそびえる『城』のシルエットがある。【学舎(がくしゃ)】だ。そこにいくつもそびえる尖塔のひとつから、もういくつかのかねが、かあんとった。







                    (【~阻止編~】につづく)







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