13-1.除夜の鐘
〇登場キャラクターの紹介です。
・史貴 茜:魔術学院の魔術研究者。もとは【賢者】だが、ある事件によってちからをおとし、〈再試験〉を受ける予定。16才。
・史貴 葵:20才の魔女。魔術学院の学院長。茜の姉。
・シロ:葵の使い魔。外見の年齢、17才くらい。
・チャコ:茜の使い魔。外見の年齢、18才くらい。
ずずずずず。
年越しそばをたべ終える。
屋敷のリビングにはこたつがあった。敷き布の上には、東西南北の席にひとりずつ。順に茜、葵、チャコ、シロの四人が足をつっこんで座っている。
魔術の学校【学院】である。
今年は【賢者】である史貴 茜が、五年ぶりに帰ってきた年だった。
「妹と来年からは平穏にすごしたい」という意味も込めて、姉の史貴 葵は使い魔の少女シロに言って、こうして『年越しそば』という、【裏】の世界には普及していない縁起担ぎを再現して提供してもらっている。
実際に調理の大部分を担ったのは、茜の使い魔である、メイド服の女性、チャコだが。
「今年も終わりね」
長い金髪をポニーテールに結った、白いセーターにデニムのパンツすがたの女、葵が言った。
二十才の身空で【学院】を管理する学院長である。
対面では、彼女の妹の茜がグデーと天板にほっぺをくっつけて窓の外をながめていた。ねむそうに。
「ものっそい吹雪いてるね」
窓の外は黒に白の礫が走る猛吹雪だった。
彼女たちのいるここ、学院長邸をふくむ【学院】の全土は、大陸の北部につらなる山脈地帯――その中腹に存している。
元より気温のあがりにくい地域であり、冬の雪化粧は毎年恒例であったが、視界がまっしろになるほどに雪が吹きすさぶのはめずらしい。
みじかくした金の頭髪を、うとうとゆらして茜は屋外の景色から夢のなかへとフェードアウトしようとしていた。
葵がトンとこたつの天板を突っつく。
「起きなさい茜。まだ最後のメインイベントが残ってるのよ」
「めーんいべんと?」
茜はねぼけまなこをこすって、なんとか頭を持ちあげた。
姉が立ちあがり、髪をしばっていたシュシュをほどく。背中に金の髪がひるがえり、いつもの見なれた――学院長として校内で幅を利かせているすがたになる。
服装はドレスに着替えるではなく、私服のままだが。
「あ、そろそろですか?」
シロがウサギの耳をぴょこつかせて立ちあがった。
緑のニット・セーターに綿のハーフパンツ。黒いタイツをはいた、十七ほどの少女だ。
葵とシロのふたりはあわただしく仕度をはじめる。こたつの外にぬいでいた靴をはいて、服かけにひっかけていたコートと、黒法衣を各々羽織る。
「どっか行くの?」
「ええ。除夜の鐘をつきにね」
「なにそれ」
リビングの出ぐちに歩きながら答える姉に茜は訊いた。
葵はすこし得意気に妹をふりかえって指をふるう。
「一年の終わりにつく鐘よ。煩悩を消し去るって言われててね。百八つ撞くの。ぜんぶ聞けば、ひとの煩悩がすべてなくなるんですって」
「ふーん。……って!」
――ばたん。
葵とシロは茜が飛びあがる直前に出ていった。
茜はこたつに手をついて、中腰になった姿勢で青ざめる。
ホワイトブリムに赤いメイド服の茶髪の女性――十八才ほどの見た目をした使い魔が、カラになったおそばの丼鉢を集めながら主を見上げる。
「どうなさいました。茜さま?」
「煩悩が消えちゃうって!」
茜は完全に立ちあがり、この世の終わりとばかりに両手をふった。
「そんなことになったら大変だよッ。私、止めてくる!!」
「あっ――。ご主人さま」
チャコはとっさに呼び止めた。
「お姉ちゃーん。待って……って。あいつワープで行っちゃった!」
コートも着ずに茜は駆けだしていった。
チャコはそんな主人を、追おうか迷う。
茜は今年の晩秋に帰ってきて以来、『事故』の影響で魔法のちからを劣化させている。だいぶ根をつめて修行しなおしたため、本来の能力を取りもどしつつあるものの、五年のブランクはそう容易く埋められるものではない。
が。主人もまた廊下に出た矢先。転移の魔術を使って消えてしまった。
「……葵さまがどこへ行ったのか、わかってるのかしら?」
重ねた食器を抱えて、廊下に出たついでとばかり。チャコはそのまま水場へと向かっていった。
(【~探索編~】につづく)




