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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編2 エイプリルフール
3/36

2-1.キツネとタヌキの化かし合い【起】






   〇登場とうじょうキャラクターです。

   ・図書館としょかんきみ:かつて【学院がくいん】の図書館で司書ししょをやっていた青年せいねん褐色かっしょくかみにベストすがたの美男子びなんし。とてもモテる。【妖暦ようれき 503年】に他界しているが、そのことを知るものはすくない。








『きゃー!』

 黄色きいろい声が【学舎(がくしゃ)】の校庭にあがる。

 【妖暦(ようれき)五〇八年】。四月一日(ついたち)

 きゃー! ぎゃー! ぎゃああああ! ぐあああああわあああ!!! 

 本日(ほんじつ)春休はるやすみのあけた【学院(がくいん)】は、すでに放課後ほうかごをむかえていた。

 (ひる)さがりのあったかいおひさまの下で、女子じょし生徒たちがおしあいへしあい、なぐりあい、技のかけあいをしながら、どどどおおおお! と駆けていく。 

(かれ)』のもとへ。

「帰ってきたんですか? 司書ししょのおにいさん」

 ぼっこぼこになったかおで、一番乗(いちばんの)りになった女子生徒が問う。黒髪黒目(くろかみくろめ)の、十代じゅうだい後半ほどの少女しょうじょ。彼女とは学校で何度なんどかはなしをしたことがある。確か杏沙あずさ とおといったか。たぶん日本人(にほんじん)の。


 きらきら(まなこ)のとお子の先には、褐色(かっしょく)かみ美青年びせいねんがいた。

 みじかく切った頭髪(とうはつ)同色(どうしょく)(ひとみ)はさわやかだが、どこかなぞめいたかげを()びている。「そこがいい」とは【学院(がくいん)】で『彼』を知るものたち――そして『彼』に入れこむ異性らの、一致(いっち)した意見だが。

 とりあえず彼は、いやしの魔法まほうを使った。とお子のケガをなおす。

 年頃の女子じょしの、顔面(がんめん)から鼻血はなぢが出たりまぶたがれあがったりしているのは、あまりみたくない絵面(えづら)だった。っつーかむり。

 ケガさえなおればかわいらしいとお子に、彼は答えた。ただ「帰ってきた」という言葉ことばは避けた。

学院長(がくいんちょう)さんにいにきたんだ」

史貴(しき)先生?」

『えー!』

 と。とお子のほかにあつまってきた生徒らが、かおをみあわせる。キリエ。スー。優真ゆうま。クリスティナ。など、いくつもの顔見知かおみりがある。

 ひとり、ふたりと『彼』は彼女かのじょたちに魔法まほうをかけて、切りきずや刺しきずをなおしていった。物騒なやつらである。

「なんのようなんですか? 場合ばあいによっちゃあ史貴学長(がくちょう)安全あんぜんに外を出歩(である)けなくなりますけど」

「きみたちが心配しんぱいしてるようなことじゃないよ」

 あかるいブラウンに洗髪せんぱつした猫目ねこめ少女しょうじょ・優真の問いに、『彼』はこたえる。片脚(かたあし)体重たいじゅうをかけて、シャツとスラックスでととのえた長身ちょうしんを支える。

 史貴しき学長がくちょう――史貴 (あおい)が、むかしから女子からけむたがられているのは知っていた。外見がいけん能力(のうりょく)水準(すいじゅん)の高さにそれは起因し、うとむ気持ちもわからなくはないのだが。


 にこ。と彼は微笑ほほえんだ。

「ちょっとあいさつしたいだけだから」

「でも、彼女かのじょ着任(ちゃくにん)してもう五年ごねんくらいたつんですよ? いまさらですか?」

「うん。それくらい優先順位(ゆうせんじゅんい)が低いんだよ」

 適当にはぐらかして、『彼』はまえにすすんだ。

案内(あんない)しましょうか? おにいさんっ」

 黒髪(くろかみ)の――とお子がよこにつく。ぱたぱたと彼は手をふった。

「いらないよ。場所ばしょはわかるから。ごめんね」

 と断って、『彼』は【学舎(がくしゃ)】にはいった。

 エントランスのドアのまえに、ぞろぞろとついてきていた女子じょし約三十(めい)がのこる。

 校庭にいたモテない男魔術師(おとこまじゅつし)くんたちが、「けっ!」と『彼』の消えた扉につばを飛ばす。

「ああー。ひさびさにえた。図書館(としょかん)(きみ)~」

「高等部留年(りゅうねん)しててよかったー!」

「てゆーかなんかやさしくなってない?」

(おも)った。まえはケガしてよーが骨折してよーが内臓(ないぞう)飛びだしてよーが放置(ほうち)だったもんね」

「ね」

 午後のぬくもりのなかで、笑いあう少女しょうじょたち。

 (とお)まきに彼女かのじょたちをながめる魔術師まじゅつしたちが、「いいのか? おまえたち、そんなやつをきで……」と心配しんぱいする。


 ――一方いっぽうで。




   〇




 くっ。くっ。くっ。くっ。くっ。

 『(かれ)』はほくそ笑んでいた。

 【学舎(がくしゃ)一階(いっかい)のエントランスホールである。いまは人通ひとどおりが()えて、彼ひとりっきりだった。うれしいことに。

 美貌(びぼう)()ちた尊顔を、にやりゆがませる。

 こころのなかで『彼』――いや『()()』は、じぶんのなりきりっぷりを称賛(しょうさん)し、打ちふるえていた。

 ――かんっ、ぺきだわ!





                      (【(しょう)】につづきます)









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