12-2.図書券 【後編】
〇このものがたりは『12-1.図書券 【前編】』のつづきです。
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〇登場するキャラクターの紹介です。
・箔 時臣:50才ほどの男性。魔術の名門校【学院】の学院長をつとめる魔術師。
・和泉:【学院】の初等部に所属する、11才の少年。【表】(魔法のない世界)からきた。
和泉は森林庭園のベンチで本を読んでいた。
ながそでのトレーナーに、端を折ったデニムのズボン。みじかい黒髪に黒眼の、典型的な日本人男子といった風情の少年だ。
としは十歳かそこいらだが、背は同世代の子どもたちにくらべて低い。
ふっ。
と影がさす。
和泉は顔をあげた。
灰色の髪をオールバックにした、鉄面皮の男が見おろしている。横には怖い顔付きの狼もいる。
(はっ……。箔先生だ……!)
この世の終わりみたいな表情をして和泉はかたまった。
相手はじっと険しい目つきでこちらを睨んでいる。
和泉は自分の読んでいる本を、よっぽど隠そうかと思った。
(怒られる。……ってか。殺される)
【表】(魔法のない世界)の出身者が、こちらで書いて出版していた娯楽小説だ。
【表】にいた頃、ネットのレビュー動画や小説の感想欄で、『こんなん誰が読むねん』と散々たたかれていた類の。
内容はすっからかんだし、文章もうまくないけれど。和泉は好んでこの手の小説を読んでいた。
ひょい。
と箔は和泉から本を取りあげる。
まっさおになって、和泉は箔の行動をみつめるばかり。
というより。視線もふくめて、身体の全部が言うことをきかなかった。
くだらん。
もっと身になるものを読め。
こんなものを見るひまがあったら授業に出ろ。そのほかいろいろ……。
そんな非難の飛んでくる未来が、一瞬の内に和泉の脳裏に去来する。
ぱらぱら。
箔はページをめくって言った。
「私はおもしろいと思わないが。きみはこういうのが好きなのか?」
「は……」
やっと和泉は運動を取りもどした。なので。
ちぢこまって。
かぼそい声で。
泣きそうになりながら。
ちっちゃく返事した。
「はい……」
「なら。今度買う時の足しにするといい」
箔は白くほそながい封筒を、栞みたいにして本にはさんだ。
ぱたんと閉じて、和泉に返す。
きょとん。
と和泉は箔から本を受けとった。
ページにはさまれた封筒のなかには、千円分の図書券が入っていた。
(【短編12:読書の秋】おわり)
読んでいただき、ありがとうございました。
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