12-1.図書券 【前編】
〇登場するキャラクターの紹介です。
・箔 時臣:50才ほどの男性。魔術の名門校【学院】の学院長をつとめる魔術師。
・グレーテ:箔の妻。名前のみ登場。(※本編には未登場のキャラクターです)
今朝、妻から図書券をもらった。
(まいったな)
『ねえ。時臣さん知ってる? 秋って【表】では芸術の秋とか読書の秋って言われているんですって』
としのはなれた愛妻、グレーテの子どもっぽい笑顔を思いかえしながら、男――箔 時臣は歩いていた。
となりには使い魔のヘレスがいる。
黒い狼だ。
首輪はなく、放し飼いのかたちになるが、生来の気質のためかあっちこっち勝手に走りまわるということはしない。
箔は五十がらみの魔術師だった。
魔術の世界である【裏】で、最も名のある魔術師の養成所にして学究機関、【学院】の長をつとめている。
白髪の多くなった頭髪をオールバックにし、上下ともにベージュでそろえたジャケットすがたのうえから、教員用の黒法衣をはおっている。
箔の手には、あいた白封筒があった。
太い指が二枚の金券をつまんでいる。
【図書券】(書籍のみに対して交換に使えるチケットのこと)と、【五〇〇円】と印字されたそれは、先日妻が町の福引きであてた四等の景品だった。
(しかし。子どもの小遣いにしかならんな……)
箔は【学院】の敷地を城――【学舎】から、森林の庭園へとあてもなく彷徨う。
箔夫婦に子どもはいない。
券をやろうと思っていた知りあいの子どもたちも、こういう時に限ってみつからない。
いまは午前の授業中なのだから、当然と言えば当然なのだが。彼女たちはさぼりの常習犯である。どこかで見かけても不思議はない。
「うおん!」
ヘレスが吠える。
箔は顔をあげた。
いつのまにか庭園の深いところまで来ていたらしい。
ひとりの少年がベンチに座っている。
(後編につづく)




