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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編11 ハロウィン
27/36

11.ハロウィンの怪




   〇ホラーです。


   ・・・



   〇登場とうじょうするキャラクターの紹介しょうかいです。

   ・メイ・ウォーリック:十一じゅういっ才の魔女まじょ魔術まじゅつ名門めいもん校【学院がくいん】に所属しょぞくする、初等しょとう部の生徒。

   ・はく 時臣ときおみ:【学院】の学院長がくいんちょうをつとめる魔術師まじゅつし初老しょろうおとこ








 ――じゅう三十一(さんじゅういち)日。


 季節きせつのイベントにとぼしい魔法まほうの世界である【(うら)】でも、この日は特別なものになる。

 魔術(まじゅつ)名門めいもんにして、【迷宮(めいきゅう)】の管理を務める学究施設(がっきゅうしせつ)学院(がくいん)】は、とりわけその()()()()つよかった。

 やまのなかにあるこの(しろ)は、その茫漠(ぼうばく)たる敷地に抱える【危険区域(ラビリンス)】の門を、この日だけは硬く閉ざすのだ。



   〇



「どうしてそんなことをしますの?」

 【妖暦(ようれき)五〇一(ねん)】。

 じゅう三十一(さんじゅういち)日。

 黒いローブをまとい、フードをあたまにかぶった少女しょうじょ迷宮(めいきゅう)(もん)のまえにいる。

 よるやみの下。

 月光に白亜(はくあ)威容(いよう)をさらすギリシャ風の建物たてものは、内部ないぶにダンジョンへのひずみを保管ほかんしている。

 なかに描いた【魔法陣(まほうじん)】の中心ちゅうしんに、赤黒(あかぐろ)球体(きゅうたい)が浮かんでいるのだ。

 それはこの世界において【ポーター】とばれる、【迷宮めいきゅう】へのはこび手だった。

 白い建造物(けんぞうぶつ)――正面入り口(ファサード)の階段に、どっかりと腰をおろしたおとこがいる。(よわい)五十ごじゅうほどの、白色のおおくなった頭髪とうはつをオールバックにした偉丈夫(いじょうふ)

 凄腕すごうで魔術師(まじゅつし)である彼は、黒い法衣(ほうえ)をフォーマルな服装の上に着ているが、その黒衣(こくい)は彼が【学院(がくいん)】の教員きょういんであることをしめしていた。


 彼――(はく) 時臣(ときおみ)は、ローブすがたの少女しょうじょあげる。

 フードからはみだしたなが黒髪くろかみ。影の下でなおあやうくきらめくむらさきがかった黒い(ひとみ)

 十一(じゅういっ)歳にしてはやや長身ちょうしんだが、箔にしてみればまだまだ「ちいさい」と形容けいようできる。

 すわったまま、箔は少女――メイ・ウォーリックに答えた。

(はい)ったら戻れなくなるからさ」

 はてな。

 とメイは小首をかしげる。

 苦笑(くしょう)して、箔はあまり関係のないはなし彼女かのじょにふった。

「それより。きみのその格好はなんだ。魔女(まじょ)かな。毒リンゴでも売りにきたか?」

死神(しにがみ)ですわ」

「そうか。分からなかったな」

 むっとしたメイに(はく)かるくのどをらした。

 このおとこが笑うことなどほかの学生のまえではさほどなかったが、ふたりは教授きょうじゅと生徒であると同時に、家柄(いえがら)的に知った間柄あいだがらだった。


「先生。今日きょうはハロウィンですわ。ほかのみんなも仮装(かそう)してましたでしょ?」

「そういえばそうだな」

「もうすこし言ってしまえば、トリック・オア・トリートです」

「こまったな。キャンディしか持ってないぞ」

「じゃあ。それで」

 (はく)法衣(ほうえ)のそでをごそごそやった。

 (ぼう)つきの渦巻うずまきキャンディを少女しょうじょにやる。

 つつみ(がみ)をはいで、メイはくちに持っていった。

 奥歯(おくば)でかじりながらあめを溶かし、それでもまだ箔のまえを立ち去らない。

 彼女かのじょは彼のとなりにすわった。

「どうしてハロウィンの日は【迷宮(めいきゅう)】にはいると帰ってこれなくなるんですの?」

「【第三層(だいさんそう)】に、生徒が『おばけ屋敷(やしき)』とんでいるフロアがあるのは知ってるな」

 こくり。

 とメイはうなずいた。

 【迷宮めいきゅう】は、地下へと(そう)を重ねるもぐり(がた)迷路(めいろ)になっていて、それぞれのフロアが各自特色(とくしょく)のある形態を取る。

 一層目(いっそうめ)は神殿風。

 二層(にそう)目は草原風。

 そして三層目は墓所(ぼしょ)風というように。


 また、その地形特有(とくゆう)のモンスターも徘徊(はいかい)していた。

 だい三層はゴーストタイプの魔物(まもの)出没(しゅつぼつ)する。

「そこに【ウィル・オ・ザ・ウィプス】が出るだろう? セント・エルモの()とも言われる鬼火(おにび)だ。そいつがハロウィンの日だけ、はなしにならんぐらい強力(きょうりょく)になる。私でも太刀打(たちう)ちできんくらいにな」

 (はく)なさけなくはならした。

 おとなしくメイはキャンディをかじっている。

 ウィル・オ・ザ・ウィプスは、低層(ていそう)にあらわれるモンスターということもあって、初等部(しょとうぶ)魔術師まじゅつしでもたおせるよわい怪物だ。

 それを。箔 時臣(ときおみ)――【学院(がくいん)】の(ちょう)をつとめるこのおとこが、はっきりと「かなわない」というのに、すこし鼻白(はなじろ)むものがある。

「第三層まで行かないという条件じょうけんつきなら、立ち入りを許可(きょか)してもよいのでは?」

「だめだ」

「どうして」

「すべてのフロアに拡散するんだよ。この日だけは。なぜかは知らん。だが、きみも聞いたことはあるだろう」

「……。ジャック・オ・ランタン」


 メイの答えに(はく)満足まんぞくそうにうなずいた。

 ――かつて悪魔(あくま)契約(けいやく)し、強大きょうだいなちからを得ておきながら、地獄行きの切符きっぷをサギ的な手法(しゅほう)免除(めんじょ)させた狡賢ずるがしこ魔術師まじゅつし

 ウィル・オ・ザ・ウィプスの正体しょうたい、あるいは別称(べっしょう)が、この【ジャック・オ・ランタン】その人だとも言われているが真偽は不明ふめい

 ただ箔は、ウィル・オ・ザ・ウィプスと、ジャック・オ・ランタンとの関連を信じていた。

「【迷宮めいきゅう】のなかで死んでなお千々(ちぢ)に砕けた(たましい)が、この時期だけはなぜか鬼火(おにび)にちからをあたえるみたいでな。私もむかし、ただのウワサだとあなどってなかに(はい)ってみたが……。逃げるので精いっぱいだったよ」

 ゆるく(はく)は太い首をふった。

 あめちゃん(キャンディ)をくわえたままメイは立ちあがる。

「わかりました。今日きょうの探索はあきらめます」

「そうしたまえ」

理由りゆうをおしえてくれたお礼に、箔先生にいことをおしえてあげますわ」

「そりゃありがたいな」


 さして期待はせずにはく(あし)頬杖ほおづえをついた。メイをあげる。

 黒いローブをあたまからかぶり、死神(しにがみ)(ふん)したと言いはる少女しょうじょは、あめぼうをつまんでくちからはずして告げる。

「先生が門番(もんばん)に来るよりまえに、十八名じゅうはちめいの生徒が迷宮めいきゅうはいっていきました」

「そうか」

 はく一礼(いちれい)して、メイは階段をりていった。

 箔はうしろを振りかえる。

 内部ないぶに迷宮への【(ポーター)】を抱える扉をみやる。

 ほっとけばまた生徒が減ることになるが。

「まあ。しょうがないな」







         (【短編たんぺん11:ハロウィン】おわり)













   んでいただき、ありがとうございました。






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