10.烏兎(うと)
〇登場するキャラクターの紹介です。
・シロ:見ためが17歳くらいのウサギの耳の女の子。魔術学院の女学長・史貴 葵の使い魔。いつも人間のすがたをしているが、元はカイウサギとゆう品種のウサギ。
・クロ:10~12歳ほどのみための少年。学院の魔術師、和泉教授の使い魔。だいたい人のすがたでいるが、もともとはそのへんを飛んでた烏。シロの知りあい。
・チャコ:18歳ほどの見た目の女性。学院の【賢者】、史貴 茜の使い魔。人のすがたでいることが多いが、元は『まめしば』と呼ばれる小型のしばいぬ。シロのせんぱい。クロとは顔みしり。
ぺったん。ぺったん。
餅をつく。
「ああ~~。しんどいーー」
夜の学院長邸まえである。
屋敷の外――。前庭の門の外にほっぽり出されたうさぎが一羽、せっせと餅をついている。
晴れ渡った夜空には金の月。
スーパームーンの満月は、冴えざえと魔術師たちの世界を照らしていた。
「なにやってんの。シロ?」
うさぎ――長い耳をぴょこりとはやした白いボブショートの少女のもとに、一羽の烏がやってくる。
黒いみじかい髪に黒い目の、十から十二歳ほどの少年だ。主人の魔術師のおさがりを着たその全身は、黒ずくめのためにまさに闇夜のからす。
シロ。と呼ばれたウサギ耳の少女は、自分より七つほど年下にみえる少年に言った。
「見たらわかるでしょ。もちつきだよ。ご主人に頼まれたの」
「ふーん」
杵を持ちあげる腕が――。ちから尽きて。ぺたんとシロは尻餅つく。
チョッキにキュロットの衣装が汗みずくになっている。
「大変だね。でもどうして?」
「なによクロ。あんた知らないの?」
「なにを?」
「今日は九月の十日。お月見よ。お、つ、き、み」
「ふーん」
聞いておきながらそれだけ言って、少年――クロは木臼の餅に手をのばした。
近くにあった白い粉をつけて、お団子にして食べる。
「ちょっとッ。あんたなに勝手に食べてんのよっ!」
「いーじゃん。ボクおなか減ってるんだもん。でもこれあんまりおいしくないね」
「文句言うしコイツ……」
がっくりうなだれてシロはうめいた。
クロは二個目のお団子を作ってまた食っている。
「『烏兎』とは言ったものの、あなたたちじゃ風流もへったくれもないわね」
ふ。とシロのうしろから声がかかった。
「チャコ」
彼女の名前をシロは呼ぶ。
十八歳ほどの、長い茶色い髪の女性だ。
赤いメイド服を着て、手には白い団子をピラミッド状に盛った器を抱えている。
「ねーえ。見てよあれ。私が一生懸命つくったおもちを、あの馬鹿からすが文句いいながら食べてんの」
「まあ、確かにあなたのついたおもちってあんまりおいしくないからしょーがないわね」
もぎゅもぎゅ。
自分の持っていた団子を置いて、チャコもつきたてのを食べはじめる。つまりシロのを食べはじめる。
シロはふたりについてはもうなにも言わない。
「で」
「で。って?」
「烏兎って?」
せっかくなのでシロはチャコに訊いた。
ピっとチャコは天上の月を人さし指で示す。
「中国の伝説よ。月には玉兎が住み、太陽には烏がいるって言われててね。月と太陽のことを言うの」
「太陽にからすがねえ……」
三個目のもちを食いはじめる黒烏に、シロは目をうろんにした。
「もっとも、太陽に住むからすは金色だけどね。金烏っていって」
丁寧にスカートの皺をなおして、チャコは草地に座った。
顎で木臼と杵を示す。
「続けなくていいのかしら。葵さまから、あなた今日は一日中もちついててって言われてるんでしょ?」
「腕がしびれてもうあがんないよ。朝からずっとついてんだよ?」
「それはご愁傷さま」
「ちょっとは手伝おうって気持ちになんないかな……」
「柴犬が餅ついたところで月見にはならないでしょ」
「じゃあ、あんたの持ってるそのお団子はなんなのよ。私への差し入れかなんかじゃないの?」
「このお団子はあんたをながめながら私が食べるものだから」
「なんでそんな残酷なことができるのよ」
「あんたのご主人さまもあそこで同じことしてるわよ」
天上をさしていた指の方角を、チャコは屋敷のほうに変えた。
シロの主人の葵とその妹――チャコの主人の茜が、バルコニーで団子を食いながらシロのほうをじっとながめている。
「いや、月みましょうよ」
「ひいひい言ってるうさぎを見てるほうが楽しいんでしょうよ」
「鬼め」
「ねー。ボクそっちのお団子も食べていい?」
「三つまでならいいわよ」
ぽてぽてとやってきたクロにチャコは言った。
(玉兎の苦労は、六分の一なのかしら?)
夜空をみつめながら。シロはしばらく思って。
――もちつきを再開した。
〈【短編10:お月見】おわり〉
読んでいただき、ありがとうございました。
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