9-4.ロシアンおはぎ ~お墓参り編~
〇このものがたりは、『9-3.ロシアン・おはぎ ~お花畑編~』のつづきです。
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〇登場キャラクター紹介です。
・シロ:うさぎの耳をはやした、白いボブショートの少女。外見の年齢、17才くらい。魔術の名門校・【学院】の女学長・史貴 葵の使い魔。元はカイウサギという品種のうさぎ。
・チャコ:茶色いながい髪に、メイドすがたの女性。外見の年齢、18才くらい。【学院】の最高実力者・史貴 茜の使い魔。元は小型のしばいぬ。
・リョーコ・A・ブロッケン:赤いセミロングに赤い目の20才の魔女。【学院】付属の研究所ではたらいている。
・史貴 葵:【学院】の女学長。21才。シロの主人。食べたら死ぬタイプの料理をつくるのが得意。名前のみの登場。
〇
「おーい、ブロッケンさーん」
シロは床で寝ている赤毛の魔女をゆさぶった。
ターンテーブルでルーレットをした結果、リョーコの席に来たおはぎをチャコが食べさせた途端に倒れたのだ。
リョーコの顔は緑に変色し、両目は白目をむいている。
くちからは泡まじりのよだれが垂れているが……。心なしか。しあわせそーな笑顔である。
シロと同じようにしゃがみこんで、リョーコを覗き込みながらチャコが結論した。
「これは。つまり……。ブロッケンさまは、見事に大当たりをひいたと」
ながい茶髪のメイド――チャコのことだが――は、ぽんと手を打って満足げに言った。
飛びあがらんばかりにシロが立ちあがった。
「やったあっ。じゃあ残りの五個は、私とチャコが作った安心安全設計のやつだね!」
「ええ」
チャコもぽんぽんとエプロンドレスのスカートをたたいて立ちあがる。
のこりのおはぎが載った中華テーブルに歩きながら。
「それじゃあ。ブロッケンさまが目を覚ましてややこしいことになるまえに、さっさと食べてずらかりましょう」
「それ以前に……。目え覚めるのかな。まさか死んじゃったってことはないよね?」
「だいじょうぶよ。あなたが思ってる以上に頑丈だから。その人」
「だああああああああ!!」
うわさをすれば。なんとやら。
リョーコは昏倒していた状態から跳ね起きた。
グリーンだった顔色は青くらいにまで回復し、目は充血した赤目――虹彩が赤いのはこの魔女の生来の特徴だが――になっている。
泡まじりのよだれをぐいっと力強くぬぐって、彼女はいつも通りそこそこ元気なすがたでフローリングに立っていた。
「うわっ。ブロッケンさん……。おはやいお目覚めで」
「もうすこし眠っていらしてもよかったのに」
と。どこから取りだしたのか。トンカチをリョーコの頭めがけて振りかぶってチャコ。
はっしッ。
脳天への金づちを、リョーコは白刃取りで受け止めた。
「っざけんなッ。あれ以上長く留まってたら、死んだじーさんとこにふらふら辿りついちゃってたわよ!」
「あ。臨死体験してたんですね」
シロが合点がいったとばかりに指を鳴らす。すかッ。
行き場のなくなったトンカチを、片手にとんとん打ちながらチャコはにっこりする。
「よかったではありませんかブロッケンさま。丁度今日はおぼんですし。お墓参りの手間もはぶけて」
「そういえば。おぼんには先祖の霊が現世にもどってくるとも言いますね」
びすっ。
と親指立てポーズで。シロお。
「だから。ご先祖さまのほうもこっちに帰ってくるめんどうがなくなって一石二鳥じゃないですか」
「あ、ん、た、ら、わあああああああああ」
両手をわなわな震わせてリョーコはうめいた。
チャコは悪びれる風なく。
「わかりましたブロッケンさま。そこまでお怒りなのでしたら、私たちもなにかお詫びをしなくてはなりませんね」
胸のまえに両腕を組んでリョーコは青筋を浮かべた。「ほおおー。チャコさんとシロさんが? この私になにをしてくれんのかしらね」
チャコは自分達の作ったおはぎをもきゅもきゅ食べながら。
「ふぁふいふぇんもふぉふぁふぇふぇむははひまふ」
「食ってからしゃべんなさい」
「来年も来させていただきます」
――ごっくん。
くちのなかのものを呑みこんでチャコは言った。
「今度はひとつとは言わず。みっつ。葵印のおはぎを混ぜてルーレットいたしましょう。そうすればスリルがなんと今回の三倍。ブロッケンさまがおじいさまと再会できる確率も三倍の、なんともお得な仕様になります」
「わあ。これはもうやるしかないですねブロッケンさん!」
うさんくさい笑顔で勝手に盛りあがる使い魔たち。
きゃあきゃあ騒ぐふたりにリョーコは手を突きあげた。
「するかあああああああああ!!」
純白の高熱波を放つ。
魔術の光がシロとチャコを吹き飛ばす。
おはぎもピューンと飛んでいった。
――その後。
決して今回のことに触発されたわけではなかったが――。
リョーコはせっせとおはぎを作り、祖父の亡くなった場所にこそこそお供えに行った。
〈【短編9:おぼん】おわり〉
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