9-2.ロシアンおはぎ ~ルーレット編~
〇このものがたりは、『9-1.ロシアンおはぎ』のつづきです。
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〇登場キャラクター紹介です。
・シロ:うさぎの耳をはやした白いボブショートの少女。外見の年齢、17才くらい。魔術の名門校【学院】の女学長・史貴 葵の使い魔。元はカイウサギという品種のうさぎ。ぴょんぴょん鳴かない。
・チャコ:茶色いながい髪に、メイドすがたの女性。外見の年齢18才くらい。【学院】の最高実力者・史貴 茜の使い魔。元は小型のしばいぬ。
・リョーコ・A・ブロッケン:赤いセミロングに赤い目の、20才の魔女。【学院】付属の研究所ではたらいている。
・史貴 葵:【学院】の女学長。21才。シロの主人。おさいほう以外の家事がとことんできない。今回は名前のみの登場。
「実はですねー」
ぴょこぴょこ。
シロの長い耳がゆれる。元はウサギであるゆえに、残った形質もくせが強い。
彼女はぐるるっとあさっての方角に視線をのがした。
「うちのご主人……。葵さまが」
「葵が?」
「私たちがちょっと目を離した隙に、ご自分で作られたおはぎを混ぜちゃったみたいで」
「……それで?」
「食べようにも、どれが葵さまの作ったやつかわからなくて。怖くて手をつけられなくなったんですよお」
シロは白状した。その間。リョーコにはほぼうしろ頭をむけたままである。
チャコが説明を引きつぐ。
「そこで我々が考えたのが、誰でもたのしく爆死できる小面憎いゲーム。ロシアンルーレットから取りまして――」
「ロシアンおはぎ。ってわけ」
「そうですそうです」
「でもそれだと『ロシア風のおはぎ』って意味になっちゃうんじゃあ……」
「こまかいことは気にしない!」
ごッ。
チャコの横からシロがリョーコにお皿の縁をぶっつける。
おはぎが六個のった陶器の側面が、若い女魔術師のほっぺをえぐった。
シロはまくしたてる。
「とーにかく。ですよ。ご主人の料理の殺人的なのはブロッケンさんも知るところ。私もチャコも、まだまだ死にたくはありません」
「つってもさあ。いーんじゃないの。お料理くらい」」
リョーコは皿を手でどけた。
「は?」
「できないってわかってることを敢えてやろうとする姿勢は私好きだし。使い魔のあなたが、主人のその努力を認めてあげなくてどーすんのよ」
「食うほうの身にもなれっつってんですよ」
ぐい。ぐいっ。
皿を再度リョーコに押しつけながら。シロ。
チャコが中身のない笑顔をつくる。
「ブロッケンさまは言うことが違いますね。葵さまとのルームメイト時代に、毎日のように手料理を食べさせられていただけのことはありますね」
「ちっちゃい頃の話よ」
「じゃあ免疫もついてるし中ってもモンダイないですね」
シロとチャコがリョーコの部屋に入ってくる。
どっかん。ばったん。
道をあけたリョーコのうしろ。――寝室と実験室を兼ねた洋間から、物騒な物音がする。
ふりむけば、なんてことはない。
チャコが中華テーブルを出して置いただけのことだった。
(って……チャコさん。どっから?)
問う間もなくふたりの使い魔はてきぱきロシアンおはぎの準備をすすめていく。
椅子を一個だけ設置して、やはりどこから出したのかわからない円卓の外周に六枚の皿をおいていく。
そこに、シロが持っていた大皿から、おはぎをひとつずつセッティングしていった。
チャコが中華テーブルの回転部をつかんで、宣言する。
「じゃあ。まわしますね」
「……。……」
「ルーレットが止まったときに椅子のまえにきたおはぎがブロッケンさんの取り分ですよ」
「……。わかったわよ」
すすめられるままにリョーコはふたりの用意した椅子に座った。
チャコが中華テーブルをまわす。
ぎゅるるるるるるるるるるるる!!
テーブルにのったおはぎは高速回転による遠心力で外にふっとんで
いかなかった。
(あのテーブルどうなってんのかしら?)
疑問には思ったが、リョーコはつっこむのをやめた。
(つづく)




