9-1.ロシアンおはぎ
〇メタな表現がふくまれます。
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〇登場キャラクター紹介です。
・シロ:うさぎの耳をはやした白いボブショートの少女。外見の年齢17才くらい。魔術の名門校【学院】の女学長・史貴 葵の使い魔。元は『カイウサギ』という品種のうさぎ。
・チャコ:茶色い長い髪にメイドすがたの女性。外見の年齢18才くらい。【学院】の最高実力者・『史貴 茜』の使い魔。もとは小型のしばいぬ。
・リョーコ・A・ブロッケン:赤いセミロングに赤い目の20才の魔女。【学院】付属の研究所ではたらいている。番外編ではよく出てくる。
・史貴 茜:【学院】の最高実力者。【賢者】の位をもつ少女。17才。チャコの主人。今回は名前のみの登場。
「ブローっケーン。さーん」
ごんごん。
女子棟上階のドアを、白髪の少女がたたいている。
【学院】に所属する、魔術研究者や教授、講師に割りあてられる集合住宅――【宿舎】である。
『リョーコ・A・ブロッケン』とネームプレートのかかった戸をたたいたのは、シロだった。
白髪をボブショートにした、うさぎの耳のはえた少女である。緑を基調としたベストとミニスカートをつけて、右手にはおはぎをのせたお皿を持っている。
となりには、赤いメイド服の女がいた。
シロよりもすこし年上にみえる、十八才ほどの、長い茶髪の女性。チャコである。
「ブロッケンさまー。おやつの配達にまいりましたよー」
「たのんでないわよー」
チャコの呼びかけに、なかから声。
はすっぱな、世慣れた風情の若い女の声だった。
がちゃ。
扉が開く。
顔をみせたのは、年のころ二〇ほどの、赤いセミロングの女魔術師だった。
タンクトップの上からえりの広いシャツを着て、下はオフホワイトのホットパンツと、カジュアルな衣装である。
サンダルが少々派手なデザインだが、この魔女基準ではおとなしめのルックスだ。
「シロさん。チャコさん。それは?」
彼女――リョーコは、赤い目をドアの隙間からぱちくりさせる。
「おはぎっすよー」
いつになく上機嫌に、シロはにこにこ言った。
チャコはいつもどおり。斜め上から斬りおろすみたいな目つきでリョーコを見おろす。
「実は。いまのこの時期は、日本ではおぼんでして」
「おぼん?」
「はあい」
びしっ。と親指を立てて。シロ。
「先祖のお墓参りに行ったり、おはぎを食べたりする日っすよー」
「なんか……」
リョーコは広い額を自分の指でおさえた。
「この『季節編』って、しょっちゅう私たちもの食ってるってイメージよね」
「まーあ季節の行事なんて縁起もの食ってなんぼってとこありますからね」
「そんなもんなのかしらね」
「で」
ずいっ。
とチャコはリョーコに顔を近づける。
「ブロッケンさまにはこのおはぎを食べて頂きたいのですが」
普段。主人の少女――史貴 茜という超一級の魔術師が彼女の主人なのだが――以外にはまったく寄りつかないくせに。この行動。
リョーコはふたりに半眼をむけた。
シロは終始、よい笑顔である。
「ねえ。そのおはぎ、なんかあるの?」
シロの皿の上には、六つのおはぎが円形にならんでいた。
「よくぞ訊いてくれました」
人さし指を立ててシロ。若干遠くなった目を、一瞬だけあらぬ方角にむけて。
「ロシアンおはぎ。なんですよ」
ずいっ。とおはぎの皿を、シロはリョーコに突き出した。
大粒のあずきに包まれたおいしそーなお団子が六個ものっている。
「ロシアンおはぎ?」
リョーコはシロの笑顔を本格的に疑った。
『いえーす!』
聞き返した魔女の言葉に、シロとチャコは同時にうなずいた。
(つづく)