8-4.巨大バンブーを攻略せよ。 ~願いごと編~
〇このものがたりは、『8-3.巨大バンブーを攻略せよ。 ~姉妹編~』のつづきです。
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〇登場キャラクター紹介です。
・シロ:外見の年齢17才くらいの女子。学院長の使い魔。
・チャコ:外見の年齢18才くらいの女性。【賢者】の使い魔。
・史貴 茜:【賢者】の少女。【学院】でさいきょーのちからをもつ魔術師。
・和泉:18才の青年。魔術学院に所属する若手の教授。
〇
夕方になった。
【学院】敷地内にある【森林庭園】。
その居住区側の入りぐち付近に【賢者】の家はある。
「おー。帰ってきた」
うさぎの耳をぴんと立てて、白いボブショートの少女――シロが庭園の通路をのぞきこむ。
横からメイドすがたの女性もまた、同じようにおなじ方角をながめた。
笹をかついだ少女が歩いてくる。
赤い法衣の、【賢者】の称号を持つ魔術師。
「おかえりなさいませ。ご主人さま」
チャコは主にお辞儀をして出迎えた。
長い茶色の髪が、夕刻の風にさらりとながれる。
「ただいまチャコ。あれ?」
「なによ茜」
「シロもいる」
「いちゃ悪いの。ちらし寿司でもつくってやろーかなーと思ってね」
「食べたーい」
にぱっ。と茜は笑って門のまえに笹をおろした。【七.七層】から適当に採ってきたものだ。
チャコにたのんで、門前にたてかけて倒れないよう固定してもらう。
小ぶりな竹を見上げてシロはぽかんと問う。
「そーいや。茜も今日は一日いなかったね。どこ行ってたの?」
「巨大バンブーんとこ」
「そうなの。でもあんた。願いごとは自分でかなえるものだ。って、だいぶんまえに言ってなかった?」
「考えかたが変わられたのですか?」
エプロンドレスのポケットから、自分やシロのおねがいを書いた短冊を出して笹につるしながらチャコ。
茜は「ううん」と首を横にふる。
と。
よろよろ歩いてくる、白髪の魔術師がひとり。
「あー。くそ。ひどい目にあったぜ……」
黒い法衣はきれいなものだが、顔色や下瞼に疲労の色が濃い。全体的にぼろぼろにみえる。
「和泉だ。なんかあったの?」
「シロ……。なんかって言うか。……聞いてくれよ~」
へたりこむようにして和泉は三人のまえにひざをついた。
黄色いサングラスの奥に涙を溜めて、うおお~いおい。訴える。
「巨大バンブー探して、七.七層に突撃したはいいんだけどさ……。いざ奥まで行ってみたら」
「行ってみたら?」
うさぎの耳をゆらしてシロが先を急かす。
がくぜん。
和泉は地面に手をついた。
「なんもなかったんだよ」
「なかった?」
「……正確には、なんかでっかいものが消滅した跡があった。クレーターができてたんだ。たぶん。誰かが巨大バンブーを破壊したんだ……」
――しかもそのあとやたら機嫌の悪い学院長に遭遇して、「教員は全員いまから生徒の無事を確保すること。生徒をみつけ次第【学院】に強制転送なさい。全員を送り返すまで帰っちゃだめ」と。言うなればあと片付けを命じられた。
予想以上にフロアに来ていた生徒は多く、和泉はいまのいままで事後処理に追われていた。というわけなのだが。
「ふーん」
シロは茜のほうを見た。
「和泉。そのクレーター私だよ」
茜は悪びれることもなく言う。
「でも。壊したんじゃないもん。『永遠におまえは消えろ』っていうおねがいを、巨大バンブーにつるしたの」
「なんでそんないじわる書くんだよ!」
じょッ。
と和泉は涙を流してわめいた。
チャコがさっと茜と青年のあいだに割って入る。ついでにナイフも投げておく。すこんッ。
茜はふっと諭すような笑みになった。
なお。茜が巨大バンブーを消滅させたのは昼ごろだが、ついでの用事で【迷宮】の調査をしていたため、帰還が夕方と遅くなってしまったのだ。
「願いごとってのはね。誰かにかなえてもらえるもんじゃないから、持つ価値があるんだよ。途中であきらめるにせよなんにせよ、最終的に到達できた地点までの過程に、強大な意味があるんじゃないのかな」
「うううう……。こういうときだけ正論いいやがってえええ」
「私はいつだって正論だよ」
「和泉さまごとき凡物にはとうてい理解できないだけですわよねえ」
「ぬがああああああああああ!」
顔面に刺さっていたナイフを怒りのPOWERで吹っ飛ばして和泉はふたり――特にチャコにつかみかかる。
うしろから和泉を羽交い絞めにして、シロが止めた。
「まあまあ。いーじゃん。和泉は残念賞ってことで。そこにある笹にならいくら願掛けしてもいいからさ」
「……えんりょしとく」
和泉は持っていた短冊をポケットに隠した。
屋敷の門のまえに飾った笹に、茜はてくてく歩いていく。
「私はかざろーっと。せっかくの七夕だもんね」
「なんだよ茜。ねがいは自分でかなえるものなんだろ?」
「うん。だって笹の葉にはいくら願掛けしたってかなうわけないんだもん。だからこっちのにはいくら抱負をつったっていいんだよ」
「おまえ。むなしいこというなあ……」
かくんと和泉はうなだれた。
シロは短冊をひっかけている茜に訊く。
「で。茜はなんておねがいしたの?」
「ふふん。私はつねに成長を祈るのさ。まあ。結局は私の行動しだいなわけだけど」
「んなこと言って……。おまえにだって、どう頑張ったところでどうにもならないことのひとつやふたつ、あるだろ」
「そうかなあ」
「……短冊。見てみてもいい?」
和泉は茜に断って、笹の葉に手をのばす。
「いーよ」
と茜は言ったきり。チャコとシロとの雑談にもどっていく。
「あー。葵さまもちゃんと帰ってきてるのかなー。心配だよー」
シロは気が気じゃないようす。
細い枝にゆれる薄紅色の紙を和泉は取った。
まあ茜は【賢者】だし。魔術の天才なわけだから、やろうと思ってできないことはない。
『成長をねがう』とは言っていたが、おおかた魔力の増幅や、難解な魔術書の解読をねがったといったところだろう。
(なんか……。おまえとはどんどん差をつけられていく気がするよ)
すこし淋しい気持ちになりながら、和泉は短冊をひっくりかえす。
そこにはこう書かれていた。
――身長があと十五センチは伸びますように。
(【短編8:七夕】おわり)
読んでいただきありがとうございました。
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