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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編8 七夕(たなばた)
20/36

8-3.巨大バンブーを攻略せよ。 ~姉妹編~




   〇このものがたりは『8-2.巨大きょだいバンブーを攻略こうりゃくせよ。 ~バトル編~』のつづきです。



   ・・・



   〇登場とうじょうキャラクター紹介しょうかいです。

   ・史貴しき あかね:【賢者けんじゃ】の少女しょうじょ。【学院がくいん】で最強さいきょうのちからをもつ魔術師まじゅつし

   ・史貴 あおいあかねあね。【学院】の学院長がくいんちょうをしている。

   ・和泉いずみ:18才の青年せいねん魔術学院まじゅつがくいん所属しょぞくする若手の教授きょうじゅ







   〇


 【迷宮(めいきゅう)】地下七.七層(ななてんななそう)

 七月の七日なのか二十四時間(にじゅうよじかん)だけ存在する、小数点(しょうすうてん)フロア。

 群生する竹と笹が広大な竹林(ちくりん)きずく――しかしモンスターはのんびりしたきのこたけのこしかいないため、迷宮内(めいきゅうない)では安全あんぜんなほうだ――エリアの中央部(ちゅうおうぶ)に、その巨大きょだい(たけ)そびえ立っていた。

 巨大(きょだい)バンブー。(※ネーミングセンス(ゼロ)でお届けしています。)

 【学院(がくいん)】の関係者らにはそうばれて久しい、ねがいをかなえる植物しょくぶつ実際(じっさい)そのじないでかさを(くだん)の竹は(ゆう)していた。

 (みき)はひと抱えものはばがあり、てっぺんは天――(あか)と黒の薄靄(うすもや)に隠れてえない。

 方々(ほうぼう)にのびる枝も、背伸(せの)びしたくらいでは届かない。

 けれど短冊(たんざく)はどこにかけてもねがいはかなうのだから、彼女かのじょは別段そのおおきさに関してはどうでもよかった。

 彼女――【学院】の【賢者(けんじゃ)】、史貴(しき) (あかね)である。

 肩までのながさの(かみ)は金の色。グリーンの()おおきく、もうあと三年(さんねん)てば傾城(けいせい)(はな)ひらくであろう可憐かれんかおだちをしている。

 シャツにミニスカートの服装の上につけているのは、【賢者】――魔術師最強(まじゅつしさいきょう)称号しょうごうである――にのみあたえられるあか法衣(ほうえ)


 魔術師まじゅつし最上位奥義(さいじょういおうぎ)である、詠唱不要(えいしょうふよう)技術ぎじゅつ『ひばりの技法(ぎほう)』を(もち)いて、あかねは自分に飛行の魔術(まじゅつ)をかける。

 ふわり。

 十七才(じゅうななさい)にしては小柄(こがら)な身体が浮きあがった。

 片手に準備(じゅんび)していた短冊(たんざく)を、巨大きょだいバンブーのひと枝にかける――。

ちなさい。茜!」

 みおろすと、(あね)(あおい)がいた。

 なが金髪(きんぱつ)に、(あお)をした若い魔女(まじょ)。【学院長(がくいんちょう)】という立場たちばから、公務(こうむ)の際には着ることを強要(きょうよう)されているドレスに、黒い法衣(ほうえ)をまとっている。

 かおつきは――(あかね)年齢(ねんれい)をあといつつはおおきくしたらきっとこうなるだろう美しさ。

 巨大(きょだい)バンブーのまえからおりずに、茜は地上(ちじょう)の姉に言った。

「なあんだ。おねえちゃんも来てたんだ」

「ええ。というか……。私に言わせてみれば、あなたがここにいるほうがビックリだわ。いつも不参加だったじゃない」


 【迷宮(めいきゅう)】は、ある事情(じじょう)でここ五年ごねんは閉じており、あかねもまたおなじ期間活動を停止していた。

 が。その時間をさっぴいても、茜が七夕(たなばた)巨大(きょだい)バンブーを無視むししていたのはいなめない事実だった。

「小さい時。私がめずらしく『ねがいがかなう竹があるのよ』っておしえてあげても、あなた『ふーん』ってむずかしいかおしてうなるばっかりだったじゃない」

 じつ(いもうと)をびしりと指ししめしたまま(あおい)は不平をならべる。

「こっちが誘っても『うーん。うーん』って首をかしげて動こうとしなかったし。……それがどういう風の吹きまわし?」

「結論が出たんだよ。私のなかで」

 あねの言うことにはほとんど(みみ)を貸さず。茜は短冊をつける作業(さぎょう)にもどる。

 そののまえに魔術(まじゅつ)の光線がひらめいた。

 どおおおおおんッ!

 爆炎(ばくえん)があがり、衝撃(しょうげき)風圧(ふうあつ)が茜の小さな身体をさらう。

 宙返(ちゅうがえ)りをうって、(あかね)(そら)着地(ちゃくち)した。


 地上(ちじょう)から(あおい)さけぶ。かなり必死なようすで。

「あなたにはわるいけど。今回ばかりは私にゆずってもらうわ!」

「なにをかなえてほしいのかは知らないけどさー。おねえちゃん……」

 あかねはグリーンのをうろんにした。りあうなら、てきとーに手加減していはらうつもりだったが。

 そのまえにひとつ確認しておく。

「ちゃんと短冊(たんざく)用意よういしてきたの?」

「あたりまえでしょう。ぬかりはないわ」

 葵はドレスには不似合(ふにあ)いなポーチに手をやった。

 【迷宮(めいきゅう)】にはいる時にはかなら腰帯(こしおび)とおすようにしているのだ。

 (くだん)かみ切れはそこに入れてある。

 すかっ。

 ふたをとめるスナップが、なんの手ごたえもなくはずれた。いや。はずれていた。

 (あおい)指先ゆびさきが、なかをさぐり……。

 ついで。ぱたぱたとドレスや法衣(ほうえ)のあっちこっちをたたく。

「……ない」

 いひっ。

 といたずらっぽく(あかね)は笑った。葵に手をける。

「どっかでっことしてきたみたいだね」

「まちなさい茜」


 魔力(まりょく)の光があかねの小さな手のひらに収束(しゅうそく)する。

暴力(ぼうりょく)はいけないわ」

「どのくちが言うんだよ」

「しっかりふたりではなって。それからどっちが願掛(がんか)けをするか。おたがいが納得なっとくのいく形で決めましょう」

「いやだね。さっきのお返しだよ!」

 (あかね)魔術(まじゅつ)はなった。

 まっ白な光の高熱波(こうねつは)が、あおいめがけて一直線(いっちょくせん)に飛んでいく。

 轟音(ごうおん)悲鳴ひめいが重なった。

 けむりがもうもうと立ちのぼり、(あか)と黒の(まだら)の空に、(あおい)の身体が飛んでいった。




   〇




「ん?」

 甲高かんだかい声が聞こえた気がして、和泉(いずみ)は飛行をやめた。

 生徒や教員(きょういん)死屍累々(ししるいるい)をなしている地上ちじょうにおりる。

 湿しめった腐葉土(ふようど)には、彼ら魔術師(まじゅつし)たちの悲願(ひがん)が、かみくずとなってひらひらころがっている。

「ドラゴンでもとおったあとみたいだな……」

 地面(じめん)はところどころえぐれ、ぱさつき、(すな)っぽくなっているところもある。

 【学院長(がくいんちょう)】や【賢者(けんじゃ)】――よう史貴姉妹(しきしまい)うんわるく交戦でもすれば、こんな惨状(さんじょう)にもなるだろうか。

(あかね)とかちうのだけはイヤだなあ……)

 学長(がくちょう)のほうとも()りあうのは抵抗があったが、すきをつけばあるいは……。というあわい期待がまだ持てる。

 ふみっ。

 もんもんと和泉が考えていると、クツの底に(みょう)感触(かんしょく)がした。

 散っていった魔術師まじゅつしたちのねがいのかけらとでも言おうか。

 踏んづけられたり魔法(まほう)余波(よは)を受けたりで、しっちゃかめっちゃかになった短冊(たんざく)和泉(いずみ)は拾いあげた。

 なんとなく。小声でみあげる。


「『図書館(としょかん)(きみ)結婚(けっこん)できますように』――だあ?」

 けえッ。

 つばいて和泉いずみは短冊をびりびりに破いた。

「どこのあほうだよ。そんなヤツと()いとげたいなんておもうのは!」

 図書館(としょかん)(きみ)と言えば、数年前すうねんまえまで【学院】で司書(ししょ)をやっていたイケすかない(やろう)である。

 性格が最悪さいあくだがなまじ(かお)いためにおんなにモテて、とっかえひっかえしてあそんでいたプレイボーイ。

「きっとろくでもない(おんな)だな」

 ひがみ十割(じゅうわり)で短冊のぬしののしって、和泉(いずみ)はちょっとだけすっきりした。

 いずれにしても。

「みんなのびてるってことは、チャンスなんだよな」

 るんるん気分(きぶん)で和泉は飛行を再開する。

 おくへと。高速ですすんでいく。









                        【つづく】








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