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鉄と真鍮でできた指環 ~季節編~  作者: とり
 短編8 七夕(たなばた)
19/36

8-2.巨大バンブーを攻略せよ ~バトル編~






   〇このショートストーリーは、『8-1.巨大きょだいバンブーを攻略こうりゃくせよ』のつづきです。



   ・・・



   〇登場とうじょうキャラクター紹介しょうかいです。

   ・和泉いずみ:18才の青年せいねん魔術学院まじゅつがくいん所属しょぞくする若手の教授きょうじゅ

   ・高山田たかやまだくん:今回かぎりのサブキャラクター。大島ヶおおしまがはらくんのともだち。

   ・大島ヶおおしまがはらくん:今回かぎりのサブキャラクター。高山田たかやまだくんのともだち。

   ・永城ながしろ 壮馬そうま二十一才にじゅういっさい青年せいねん和泉いずみの弟子。








   〇


 【迷宮(めいきゅう)】。

 魔術(まじゅつ)名門めいもん校【学院(がくいん)】が管理する危険区域である。

 フロアごとに異なる地形には、モンスターや魔法(まほう)の鉱物・植物しょくぶつが生息し、(おく)には下層への階段が存在する。

 実戦型の授業(じゅぎょう)やフィールドワークで学生のおとずれることもおおいが、安全性あんぜんせい確保かくほのため、学級(がっきゅう)によって『下降制限』がかけられている。

 初等しょとう部の生徒は三階層まで。中等部生(ちゅうとうぶせい)でも、二桁(ふたけた)フロアはゆるされていない。高等部以上(いじょう)になると制限はかなりゆるくなるものの、それでも下層に行くほどモンスターがつよくなるという性質(じょう)、深くまでもぐるものはすくない。

 二十(にじゅう)階層より下は、とりわけモンスターの凶暴きょうぼう性・悪質あくしつ性が劇的に高まるので、教員(きょういん)クラスでもよほどのことがない限り――あるいは業務上ぎょうむじょう必要ひつようでない限り――近づかない。


 【七.七層(ななてんななそう)】は、溶岩(ようがん)地帯である【第七層(だいななそう)】を踏破(とうは)した先にあった。

 えたぎるマグマに岩の(はし)がかかっただけのエリアもある第七層は、順当(じゅんとう)に考えればギブアップする魔術師(まじゅつし)たちが出てくる『試練の()』と言えた。

 洞窟(ない)充満じゅうまんする、熱波(ねっぱ)熱気(ねっき)

 その息苦いきぐるしさと【石像の魔物(ガーゴイル)】などの悪辣(あくらつ)な怪物の出現しゅつげん加味(かみ)すれば、より下層まで行きつけた連中(れんちゅう)なんてそんなにいない――。

 つまりは。

 出遅(でおく)れた和泉(いずみ)にも、いくらかチャンスはのこっている。

 ――はずだったが。



(あまかった……)

 『(あかね)と、で、で。でッ。デートできますように』

 と書いた短冊(たんざく)を片手に和泉(いずみ)(あせ)をぬぐった。溶岩(ようがん)地帯を飛んだ(さい)に噴きだしたものである。

 彼がいまいるのは七.七層(ななてんななそう)

 はち階層()におりる階段を、なな割ほどすすんだところに出現しゅつげんしたフロアであることからそうばれている。

 あたり一面(いちめん)に、竹や笹のい茂ったまようような竹林地帯(ちくりんちたい)。適度な湿度(しつど)があり、すずしい風が吹いている。

 和泉のあしもとには、腐葉土(ふようど)が広がっていた。

 あっちこっちに、このフロアのモンスターらしき、手足てあしのはえたきのこたけのこがのこのこあるいている。かわゆい。

 どうひいき()にみても上半分(うえはんぶん)がチョコめいたものでコーティングされ、石突(いしづ)きや下半分(したはんぶん)をビスケット生地(きじ)で構成されたそれらは、おたがいの存在(そんざい)を確認するなりぽかすかとなぐいをはじめ、勝手な消滅(しょうめつ)を繰り返す。

 それを傍目(はため)にながめていた生徒のひとりが、ぽつりと「きのこたけのこ戦争」とつぶやき、くつくつ肩をゆらして去っていく。

 根暗(ねくら)っぽい彼を横目(よこめ)見送みおくって――それくらい和泉(いずみ)もぼんやりしていたということだが――和泉ははッとした。

 あらためてまわりを見回みまわす。


 赤黒(あかぐろ)い空は、迷宮めいきゅうにただよう濁った【魔力(まりょく)】によるもの。

 精神(せいしん)けず(まだら)瘴気(しょうき)からまもるため、法衣(ほうえ)やマントを着込んだ生徒や教員(きょういん)が、短冊片手に――またはくちにくわえたりして――あっちこっちで魔術(まじゅつ)はなち、魔力(まりょく)の武器で打ちい、時には素手(すで)で取っ組みあいをして(あし)をひっぱりあっている。

 どおおおおおんッ。

 爆発(ばくはつ)がして、黒焦げになった男子生徒が和泉いずみのそばに吹っ飛んでくる。

 黒煙(こくえん)のむこうから、加害者かがいしゃであろう魔術師(まじゅつし)の声が聞こえる。

「わはははははあああああ」

 ――(とお)ざかっていきながら。

「わるいな高山田(たかやまだ)! これで今年の学年首位(がくねんしゅい)は、オレさまのものだあ!」

「くううう……っ。お。おろかなり大島ヶ原(おおしまがはら)……」

 と被害者ひがいしゃ――高山田くんというらしい――はヒビのはいった眼鏡めがね(おく)で、悔しそうにを閉じる。

「トップの座は……自分のちからで()ってこそだというのに……」

 そううめく高山田()が大事に握りしめている短冊(たんざく)を、ちらっと和泉(いずみ)はぬすみる。


 『この世界で最強さいきょう魔術師(まじゅつし)として未来永劫(みらいえいごう)君臨(くんりん)できますように』

 けいれんをおこしている高山田(たかやまだ)和泉(いずみ)はしゃがみこんだ。

 (ねん)のため。

 高山田たかやまだの手から短冊をひっこぬき、びりびりに破いて火の呪文(じゅもん)となえて燃やしてはいにする。

 それから急いで和泉はべつの呪文を唱えた。

(とりで)目指(めざ)す、タカの()ばたき」

 高速飛行の魔術(まじゅつ)である。

 視界を埋めつくす竹にぶつからないよう――若干(じゃっかん)スピードをゆるめて。和泉は(きゅう)カーブを切りつつおくをめざす。

 巨大(きょだい)バンブーのあるであろう。中心ちゅうしん部へと。

「あ。あれっ。せんせい……。ぼくの回復してくれないの……?」

 うしろから高山田氏(たかやまだし)の声がいかけてきたが、和泉(いずみ)無視むしした。




   〇




 ぎゅおおーんッ。

 和泉いずみ竹林(ちくりん)を飛んでいく。

 途中とちゅう何人(なんにん)かの生徒が。

「あいつを先にいかせるな!」

吾郎ごろうッ。おまえの得意な矢の魔法まほうであの白髪(はくはつ)を撃ちおとせ!」

「うわああ。ロリコンの和泉先生(いずみせんせい)だ。きもおーい」

 とわめきつつ、火柱(ひばしら)高熱(こうねつ)弓矢ゆみや七色(なないろ)の光線を撃ってきたが、和泉はすべて魔法(まほう)障壁(しょうへき)で防いだ。防いだ……。

 きずついたのは心だけである。おも女子生徒(じょしせいと)の……。最後のせりふに。

「ちくしょおっ。あいつら……。大学部にきてオレの講義とるようになったら、全員無条件(むじょうけん)F判定(エフはんてい)にしてやるううう」

 F判定とは。つまり不合格(単位を取得しゅとくさせません)という意味いみである。

 そんなアカデミックハラスメントがばれたら(そして大抵ばれてしまうのが【学院(がくいん)】のおそろしいところだが)当校の学院長(がくいんちょう)に「やらなきゃよかったよお……」とかされるくらいおも懲罰(ちょうばつ)が課されてしまう。

 なので。和泉(いずみ)場合ばあいは実行に移すことはしないのだが。言うくらいはさせてほしい。


 ――かっつッ。

 のまえを一筋ひとすじの風が横切(よこぎ)った。

 鼻先はなさきをかすめた一迅(いちじん)のそれは、和泉いずみのそばにびていた高い竹の(みき)に刺さって止まる。

 和泉は飛行をやめた。

 浮いただけの状態(じょうたい)であたりを見回みまわす。

 おなじように浮遊(ふゆう)していた魔術師(まじゅつし)が、疾風(しっぷう)――()の飛んできた方角(ほうがく)から姿すがたをあらわす。

 くちに。短冊(たんざく)をくわえている。

(ポケットにでも入れとけよ)

 というまっとうな感想を和泉(いずみ)は息と共にのみこんだ。相手あいて()わっていたからである。

 彼には見覚みおぼえがあった。

 みじかい茶髪(ちゃぱつ)(くろ)のノッポ。二十一才(にじゅういっさい)だが今年の(はる)にようやく高等部三年生(さんねんせい)昇級(しょうきゅう)し、万年落第(まんねんらくだい)汚名(おめい)返上へんじょうできた男子学生。

 成績だけはわる魔術師(まじゅつし)


永城(ながしろ)……」

 永城 壮馬(そうま)。自分の弟子の名前なまえ和泉いずみはつぶやいた。

 彼のクラスを受けもっているわけではないが、さる事情(じじょう)から和泉はかつて永城が退学させられそうになっていたところを個別指導――直接ちょくせつおしえ子として面倒めんどうをみるという形で引き取っていた。

「わるいなあ。和泉(いずみ)せんせー」

 彼――永城は、魔力(まりょく)で構成した(ゆみ)に、背中(せなか)にしょった(つつ)から()をつがえる。

「いくら師匠(ししょう)やいうてもな。オレも今回だけはゆずられへんねん」

「おまえになにかをゆずってもらった記憶きおくってあんまりいんだけど」

 短冊(たんざく)を噛んだまま器用(きよう)にしゃべる弟子に和泉は言い返した。

「じゃかあしゃあっ!」

 くわっ。

 と永城(ながしろ)ひらく。くちのはしで、ねがいごとを書いた(かみ)がゆれる。

「オレのたってのお願いがかなうチャンスなんやッ。はやいもん()ちである以上いじょう、和泉せんせーにだって出しぬかせはせえへん!!」

(だしぬくって……。オレどっちかってうと出遅(でおく)れたんだけどな)


 おもったけれど和泉いずみは言わなかった。永城ながしろ本気(ほんき)だ。

 おそらく。

 と和泉(いずみ)には相手あいてねがいに見当をつけていた。

 永城は学院長(がくいんちょう)――史貴(しき) (あおい)熱狂ねっきょう的なファンだ。

(おおかた『史貴学長(しきがくちょう)と結婚したあい』。とかそんなんなんだろうな)

 自分も人のことは笑えないため、和泉は正面切(しょうめんき)って永城(ながしろ)う。

 と。彼のくちもとにぴたりとはさまった短冊(たんざく)の文字がえる。

 『たこやきが(はら)いっぱい食えますように』

(……。ふっ……)

 和泉は剣呑(けんのん)だったかおつきを微笑ほほえみに変えた。

 二本(にほん)(ゆび)を永城にむける。

 同時に相手あいて(げん)につがえていたやじりを(はな)す。

騎士(きし)()す、水霊(すいれい)静寂(せいじゃく)!」

 怒涛どとういきおいで和泉の指先(ゆびさき)から水流(すいりゅう)が飛び出した。

 肉薄(にくはく)する()みず投槍(ジャベリン)し返し、うずきながら永城の全身をもみこむ。


「んなああああがぼぼぼッ! あほな(あぼば)あがばぼべべぼおお!」

 っしょーもないねがいにあきれた和泉いずみ容赦(ようしゃ)ない攻撃(こうげき)紙幅(しふく)の都合のために永城 (ながしろ) 壮馬(そうま)はあっけなく敗北はいぼくした。

 (みず)魔術(まじゅつ)は、ついでに下にいた数人すうにんの生徒たちにも殺到(さっとう)し、ながす。

「くっそ。永城のせいで時間を無駄むだにしちまったぜ……」

 すい~。

 と先を目指めざしながら。和泉(いずみ)はちょっとした予感よかんにとらわれる。


 これだけおおくの生徒や教員(きょういん)がしっちゃかめっちゃか競争(きょうそう)をしているのだ。

(まさか……。学長(がくちょう)(あかね)も来てるんじゃないだろうな……)

 どちらとも、まともにりあったら()()はない。

 いないことをいのりつつ。和泉(いずみ)はひきつづき、ねがいのかな巨大竹(きょだいバンブー)を探す。









                            【つづく】







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